声優・早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。
4月のテーマは「エリザベス女王の誕生日によせて」。21日に96歳の誕生日を迎えた女王陛下、および英国王室にまつわる3曲をご紹介した。
ユニバーサルミュージックの音楽サイト「uDiscover」での連載最終回にあたり、「春、はじまりのクラシック」というプレイリストを作った。そのとき真っ先に思いついたのが、敬愛する女王エリザベス2世の戴冠式の音楽だった。
冬が長いヨーロッパで育まれたクラシック音楽には、春をたたえ、自然や鳥たちをいつくしむ音楽がたくさんある。なかでも、庭を愛する英国の春の音楽にはわざとらしさがなく、同時に洗練されている。それは謙虚さと品位を重んじる、女王のアティテュードそのものであるように感じたのだ。
6月には、即位70周年を祝うプラチナ・ジュビリーも控えている女王。音楽を通して、「王冠を戴く者」の覚悟と勇気に触れてみたい。
1) ヘンデル:「アン女王の誕生日のためのオード」より 神々しい光の永遠の源泉(4/19放送分)
春の日差しのようにやさしく神々しいこの曲は、18世紀のイギリスに君臨し、ステュアート朝最後の君主となったアン女王のためのオード(自由形式の叙情詩)。作曲家ヘンデルは、ドイツ生まれだがイタリアで音楽修業し、のちイギリスに帰化。英国王室の典礼のための音楽を数多く手がけた人物だ。
全7曲のオードのうち、この第1曲は現在でも度々演奏される人気曲。透明で力強いソプラノが印象的なエリン・マナハン・トーマスの歌声は、2018年5月に行われたヘンリー王子とメーガン妃の結婚式でも披露され、強い印象を残した。
歌には、スペイン継承戦争が終結し、世界にもたらされた平和への祝福もこめられている。今、世界に鳴り響かせたい曲の一つ。
2) ヘンデル:「ジョージ2世の戴冠式アンセム」より 司祭ザドク(4/20放送分)
1727年、ロンドンのウエストミンスター寺院で行われた英国王ジョージ2世の戴冠式のためにヘンデルが作曲し、歴代国王の戴冠式で演奏されてきたアンセム。UEFAチャンピオンズリーグのテーマ曲としてサッカー・ファンにもおなじみの、まさしく「はじまりの音楽」だ。
1953年、エリザベス2世の戴冠式を目にするたび、26歳のひとりの女性が「王冠を戴くもの」となる覚悟に、毎回胸が熱くなる。
3) スタンド・バイ・ミー(4/21放送分)
黒人霊歌「Lord, Stand by Me」にインスパイアされ、1961年にアメリカで発表されたベン・E・キングの楽曲。ソウルの名曲として、ジョン・レノンなど多くのアーティストにカバーされたが、今では1986年の同名映画の主題歌として広く知られている。
今回紹介したのは、前述したハリー王子の結婚式で多くの人の心を動かした聖歌隊、カレン・ギブソン・アンド・ザ・キングダム・クワイアの演奏。
彼らの結婚式には異例な演出がいくつもあったが、この曲もその一つ。妃のルーツへの誇りと、過去を乗り越えともに生きることを選んだ二人の想いがあふれている。話題の尽きない夫妻ではあるが、新時代への願いがこめられた素晴らしい結婚式のことは、きっと一生忘れないだろう。
夜がきて、大地が暗くなると、あたりは月明りしか見えなくなる
でも僕は恐れない ただ君が そばにいてくればいい
人と人を結ぶ思いは、いつの時代も変わらない。
もし、その人と出会うことがなかったら。あるいは夢などもたなければ。こんなにせつない思いをすることはなく、心はもっと穏やかでいられたはずなのに――。私たちは日々悩み、ざわつく心と向き合う。
しかし、穏やかな微睡の中にはきっと、何かを分かち合う喜びも悲しみもない。苦しくても精一杯悩んで、愛して、世界を信じる覚悟を持ちたい。
そんな気持ちを、エリザベス女王はいつも思い出させてくれるのだ。
花、夜空、香り、待降節、物語というテーマで音楽をご紹介してきた連載も、今回が最終回。再び訪れた春の音楽たちが、ときめきに満ちた365日の友となれれば幸いだ。
https://www.udiscovermusic.jp/classical-features/classic-recipe-for-wonderful-365days-6
クラシック・プレイリスト、次回の担当は2022年6月末を予定しています。
毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。
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