ハリーとメーガン、あるいは最高の戦友たち

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2018年5月。エリザベス2世女王陛下の孫で、王位継承順第6位であるハリー王子がメーガン・マークルと結婚、サセックス公爵夫妻となった。

潔い白で統一されたドレスや花々に、英国の5月の緑と日差しが映えるロイヤルウェディング中継にうっとりした方も多いだろう。もちろん、私もその一人だ。

ただ、私がなにより感動したのはドレスやケーキではなく、「物事をよいほうに変革したい」という共通の目的を掲げ、同じ方向を見すえる二人の眼差しと行動についてだった。

ロイヤルウェディングといえば「おとぎ話みたい」が決まり文句のようだが、私はあの日、あまりにかっこいい男女バディに出会えた驚きと、リアリティに震えていた。

本稿を、実況では書ききれなかったふたりの歴史や音楽、その「革新」と「バディとは何か」についての記録としたい。

 

■出会いから公爵夫妻へ

2016年、ふたりの交際報道は「突風のよう」に世界をかけめぐった。

友人の紹介で初対面。2回のデートのあとすぐに、ハリーが「第二の母国」と愛するボツワナにメーガンを招いたことで、本命登場と目されたのだ。

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メーガン・マークルはアメリカ人の女優。以前にも女優と交際していた「やんちゃな次男坊」のことだし、メーガンについてもドラマ『SUITS/スーツ』以外の背景は知らなかったから、当初は完全に静観を決め込んでいた。

それでも『25ans』が彼女を取り上げるたび、好感度は上がっていった。写真の表情にはアメリカ人らしい自信がにじみ、カジュアルな装いや発言にもどこか上品さと、教養が感じられた。そして何より、行動力があった。

昨年末に婚約が発表されたとき、私はさっそく、そのルーツを紐解いた。

 

メーガン(Meghan, Duchess of Sussex/サセックス公妃)は、1981年8月4日、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。アフリカ系アメリカ人の母親ドリア・ラグランドは社会福祉の修士号を持ち、心理療法士として働いている。白人の父親トーマス・マークルは、エミー賞受賞歴のある照明ディレクター。両親はメーガンが6歳のとき離婚している。

ハリウッド育ちのメーガンは、カトリック系私立の女子校で学んだ。モットーは「寛容な心、道徳心、世界をより良い方向に変える力」。11歳のときには、食器洗剤のCMに現れる女性差別について当時のファーストレディ、ヒラリー・クリントンに直訴し、全米の注目を集めた。

大学では演劇と国際関係の学士号を取得。その後、女優として長い下積み時代を過ごしながら、女性の権利や平等を発言しつづけてきた。

2011年、ドラマ『SUITS/スーツ』のレイチェル・ゼイン役でついにブレイク。仕事への野心にあふれ、ひたむきながら、エレガントなヒロインを7年間演じた。

同時に女性の地位向上を目指す国連ウィメンの大使にもなり、2015年には女性のリーダーシップを提唱する力強いスピーチを行っている。

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「女性はテーブルの席が必要です。でも招待がないと席には座れません。招待がないならなば、女性自らテーブルを作ればいいのです」

 

一方、ハリー(Prince Henry, Duke of Sussex/サッセクス公爵ヘンリー)は1984年9月15日生まれ*1

ご存知ダイアナ元妃とチャールズ皇太子の次男として生まれたが、12歳という最も多感な時期に、あの事故で最愛の母を喪った。

ボツワナを「世界のどこよりも自分らしくいられる場所」と語るルーツは、その母ダイアナの遺志を引き継いだチャリティ活動にある。2003年、イートン校の試験を終えた後アフリカに渡ったハリーは、生来の気質もあって現地にあたたかく迎えられた。以来、通いつづけること15年。2006年には、アフリカのエイズに苦しむ子供を支援する慈善団体サンタバリーを設立している*2

一方で、軍隊経験は軋轢の連続だった。2005年、サンドハースト王立陸軍士官学校に入学。2年後に彼のイラク派遣が発表されると、激しい論争が起こった。陸軍参謀総長は「王子は価値の高い標的であるため同僚の危険度が増す。よって派遣はない」と発表したが、ハリーはあくまで前線勤務を志願。アフガニスタンに従軍するも、情報漏えいのリスクから泣く泣く軍務を離れることとなった。

この陸軍時代が、人間形成において大きな役割を果たしたとハリーは語っている。

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ダイアナの没後20年となった2017年には、心のバランスを崩していた過去を告白。兄・ケンブリッジ公ウィリアムとの対談でこのように語った。

「幼いときに母を亡くしたつらさは、兄弟でも話さなかったね。でもほかの家族や子どもには、そうなってほしくない。つらい経験をした子どもが話をできるよう、手助けしたい」

そうして彼は自らの経験を原動力に、心の病に対する偏見を取り除く活動に邁進している。

ラスベガスの醜聞に象徴される「やんちゃな次男坊」キャラは、たしかにキャッチーで国民の受けもよさそうだが、その裏には、繊細で愛情深い彼の素顔がある。

 

■「物事をよいほうに変革したい」

交際発覚時から、世界中がハリーとメーガンを追いかけまわした。

メーガンには20世紀の「王冠をかけた恋」を想起させる離婚歴があったし、それが落ち着いても、過去の発言や生まれについて集中攻撃がやまなかった。ハリーは即座に、恥ずべき報道に対する異例の公式声明を出す。

「全国紙の一面での中傷やソーシャル・メディアやネット上の記事は、あからさまな性差別、人種差別だ」

そして、婚約発表のインタビューに応えてこう語った。

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「この女性を愛していると気づき、彼女も僕をと願ったときから、責任を感じています。二人でソファに座って、率直に話したんです。『君が入ろうとしているのは大変な世界だ。誰にとっても容易なことじゃない』。

でも彼女は僕を選び、僕は彼女を選んだ。だから個々に闘わねばならないときも、僕たちはチームなのです。

僕たちのすべきことは山ほどある。物事をよいほうに変革したいという強い思いが、つねにあります」

その言葉にメーガンが大きく賛同する。11歳から社会に発言してきたメーガンが、長いチャリティの歴史を持つ英国王室の一員にーーそれだけでも現代的で、頼もしい。しかしハリーは、このように付け加えた。

「僕らがきちんと仕事を成し遂げることで、人々が新しい感覚で世界を見られるようになってほしい。

どうか、歪んだものの見方をしないでほしい」

彼女と恋に落ちたことは奇跡で、完璧。はっきりとそう言い切るハリーと、見守るように微笑むメーガンが眩しかった。

 

5月19日、2人の挙式は、ウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂で行われた。

二人は王室の「新しい風」となることに自覚的だった。社会とともに変化し、成長していく公爵夫妻ーー挙式には、そんな二人の意志がはっきりと表れていた。

結婚式に市民を招いたこともそのひとつ。たとえば招待客のひとり、ロンドン東部でアートスタジオを主宰するパメラ・アノムネゼは、ジュエリー作りや裁縫を通じて心の病に苦しむ人の社会参加を促す活動をしている。

「王子の活動のおかげで、少しずつ偏見が和らいでいます。招待状は私だけではなく、苦しむすべてのひとに力を与えました。こんなに嬉しいことはありません」

もちろん、お楽しみもたくさんあった。

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エルダーフラワーとレモン風味のウェディングケーキを製作したのは、メーガンと同じカリフォルニア出身のオーガニック・シェフ、クレア・プタック(Violet)。

ロンドン・フローリストの女王フィリッパ・クラドックも、自然保護活動にも熱心な二人のリクエストで、ロンドンの緑地に自生するブルーベルのような野草を取り入れた。

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ドレスはジバンシィだが、クレア・ワイト・ケラーによるデザインはとてもシンプル。清冽で、大人の落ちつきを強調したデザインに、月の女神ディアナ(ダイアナ)を思わせるティアラ、透き通るような長いトレーンがよく映えていた。

トレーンにはイングランドの薔薇、スコットランドのアザミ、ウェールズのラッパスイセンやアイルランドのコメツブグサが刺繍されていたという。

ここまで、すべて女性クリエイターが手がけているのもメーガンらしい。

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『SUITS/スーツ』の共演者たちのドレスもかわいかった!

 

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音楽面では、聖ジョージ礼拝堂合唱団はもちろん、BBCヤング・ミュージシャン2016の勝者として注目される19歳の黒人チェリスト、シェク・カネー・メイソンによる独奏、ゴスペル風の「スタンド・バイ・ミー」も話題となった。

Set List:

1) エリザベス女王とエディンバラ公の到着:トランペット隊によるロイヤル・サルート

2) 花嫁の到着:近衛トランペット隊による祝賀

3) ヘンデル:入祭歌「神々しい光の永遠の源よ」(『アン女王の誕生日のためのオード』HWV74より)

4) 讃美歌「すべての希望の主」

5) タリス:モテット「汝らもし我を愛せば」

6) スタンド・バイ・ミー

7) ラター:アンセム「主があなたを祝福し、あなたを守られるように」

8) フォン・パラディス:シシリエンヌ

9) フォーレ:夢のあとに

10) シューベルト:アヴェ・マリア

11) 英国国歌「女王陛下万歳」

12) 花嫁と花婿の退場

そして、最もインパクトがあったのが、アメリカの黒人牧師による説教だ。彼は式辞で奴隷制の歴史に触れ、キング牧師の言葉を引用し、愛の力を情熱的に説いた。

彼らを選んだのは、もちろんハリーとメーガン本人だ。

 

■永遠の源

式の冒頭を振り返ってみる。

現地時間11時半。定刻を前に、王室騎兵連隊の軍服を着たハリーと、ベストマンを務めるケンブリッジ公ウィリアムが登場した。ふたりはそれぞれ陸軍と空軍の大佐の称号があるそうだが、あえて簡素な礼装にとどめたという。

そういうすべての行動から新時代を感じた。

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最後に現れたメーガンは、透きとおった長いトレーンを曳きながら礼拝堂に入り、10人の花嫁付き添い人とともに教会の通路を進んだ。

ファンファーレに続き流れ出した美しい音楽は、ヘンデルによる『アン女王の誕生日のためのオード』より、入祭歌「永遠の源よ」。ボーイ・ソプラノと見まごうほど清らかな歌唱が、じつに天上的だった。

 

差し込む光に照らされながら、毅然として歩むメーガンは、月の女神のように凛々しく、神々しかった。

私があの男を幸せにしてみせる、と全身で表現しているようだった。

聖歌隊席仕切りの前で、父の代役を務めるチャールズ皇太子が登場。メーガンの手を取り、礼拝堂の最も歴史ある通路をハリーの元へエスコートする。

ハリーは終始くすぐったそうな、誇らしそうな、本当にいい顔をしていた。

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彼にとって、彼女はヒーローなのだな、とあらためて思った。自信に満ち、上品で教養もあり、母と同じ世界を目指している。

何よりハリーを、とても幸せにしている。

 

ああ、この人たちは、出会うべくして出会ったのだな、と心から思えた。

結婚式で、こんなに泣いたのははじめてだった。互いに守られているあたたかな安堵と、互いを守りたいという冴え冴えとした使命感が、彼らを包んでいた。

同時に個々を尊重し、対等に隣に立ち、おなじ方向を見据えているのがわかった。

そういう関係性を、私たちはバディと呼ぶのではないか。

 

カンタベリー大司教にハリーが宣誓した瞬間、礼拝堂に笑いが漏れた。厳かで尊いのに、すべてが人間的で、自然で、愛に満ちていた。

礼拝堂に飾られた白薔薇は、ダイアナが愛した品種だったという。その名も「Forget me not(私を忘れないで)」。

忘れなくていい。ともに前進すればいい。

せつない愛も孤独も葛藤も別れも、苦しいことは全部すませた。

あとはきっと、楽しいことばかりだろう。

 

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参考資料:

Harry and Meghan – A Windsor Wedding(Entertain Me Production, 2017) 

世紀のロイヤル・ウェディング2018

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*1:誕生日が同じなので昔から親近感を持っている。今回、激しく共感したのも、いろいろあった彼がようやくたどりついた未来だからかもしれない。

*2:レソト王室のセーイソ王子と協力し設立。王国の子どもには、偏見を恐れHIV感染を公表したがらない傾向があったため、著名人が「小さな秘密」を公表する「フィール・ノー・シェイム(恥じることはない)」というキャンペーンを立ち上げた。2014年には、自らの「小さな秘密」をYoutubeで告白。王子の呼びかけに答え、多くの女優や歌手も同様の告白をした。

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