Memories & Discoveries 22/06「F.リストによるF.ショパン」

声優・早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。

6月のテーマは「F.リストによるF.ショパン」。6月17日に発売された1作目の小説『F ショパンとリスト』(集英社文庫)にちなんで、二人の天才の合作といえる「6つのポーランドの歌」から3曲をご紹介する。

小説は、昨年ご紹介させてもらったリーディングシング『F ショパンとリスト』のシナリオを基に、大幅に加筆修正した書き下ろし作品。激動の歴史に翻弄される音楽家たちの青春を、実在の手紙や手記と大胆な解釈を交えて描いた。

昨年の放送では、舞台のオープニングに使用したショパンのエチュードや、物語誕生のきっかけになったリストのコンソレーションをご紹介したので、今回は少し目線をかえて2人の個性に迫ってみたい。

1) ショパン作曲/リスト編曲「6つのポーランドの歌」より「春」(6/21放送分)

盟友ショパンの歌曲からリストが選りすぐり、ピアノ用に編曲した連作「6つのポーランドの歌」。中でも有名な第2曲である。

ショパンといえば「ピアノの詩人」として知られているが、本人はオペラなども大好きで、内輪では歌曲を発表していた。原曲であるショパンの歌曲集「17の歌 作品74」は没後の1856年頃に出版されたが、この「春」が作曲されたのは1838年。ショパン28歳、すでにパリで活躍していたときの作品である。

ポーランドの詩人ステファン・ヴィトヴィツキの詩は、美しい牧場の景色や咲き誇る花々を歌っているが、はたしてどんな曲なのか。プレイリスト1曲目の原曲を再生すると、静かな大自然の中で、ひとり佇む男――そんな情景が浮かんでくる。小説の中でも綴ったZALというポーランド語。その言葉が持つ悲しみや、郷愁といったイメージを思い出さずにいられない。

フランツ・リストは、そんなショパンの魂がこもった歌曲を洗練されたピアノ曲へと編曲し、各地のツアーで披露した。それはリストにとって、音楽家としての使命の一つだったのではないだろうか。

リストが書いたショパンの伝記『F. リストによるF. ショパン』と同じように、この「6つのポーランドの歌」は2人のF--フレデリクとフランツを繋ぐ作品であり、それぞれのキャラクターを感じることができる熱い作品だと思うのだ。

2) ショパン作曲/リスト編曲「6つのポーランドの歌」より「乙女の願い」(6/22放送分)

2日目は、「6つのポーランドの歌」の第1曲に戻ってみよう。軽快なイントロのあとで、「もし私が太陽なら、森や野原でなく、あなたの傍で輝いていたい」といった可憐な願いが歌われる。明るく親しみやすい曲だ。

注目したいのは、この曲が全体的にマズルカのリズムであること。マズルカは、4分の3拍子を基本とするポーランドの舞曲。取材で知り合ったポーランド人の先生によると、マズルカはポロネーズ以上にポーランド人の魂だという。

リストの編曲版では、楽曲の後半が変奏曲のようにドラマティックに展開していく。前述のとおり「6つのポーランドの歌」はフレデリクとフランツを繋ぎ、それぞれのキャラクターを感じることができる作品だが、ここではリストの独自性、華麗なアレンジテクニックがより光っている。

ここまでのピアノ演奏は、マリアム・バタシヴィリ。1993年ジョージア生まれ。ワイマールのフランツ・リスト音楽大学で学び、2011年若いピアニストのためのリスト国際コンクールで優勝したリストのスペシャリストだ。2曲も収録されているデビュー・アルバムが「リストと、リストの親友ショパンの作品から2人の関係性を探る」というテーマなので、興味のある方はぜひ聴いてみてほしい。

3) ショパン作曲/リスト編曲「6つのポーランドの歌」より「いとしき娘」(6/23放送分)

最終目は、「6つのポーランドの歌」の第5曲。小説『F ショパンとリスト』にも登場するアダム・ミツキエヴィチの恋の詩がもとになっている。「僕のいとしい人は、機嫌がいいと陽気に歌いはじめる。僕はそれを遮らず、ただひたすら聞くんだ」という詩にショパンが作曲したのは、1837年頃。ちょうど出会ったばかりだったはずの、ジョルジュ・サンドのことを連想してしまう。

とはいえ、今日のメインはフランツ・リストによる華麗なるアレンジバージョンだ。リストの醍醐味ここにアリというべき劇的な響きに、どうしても「俺」が出てしまう男、リストがいとしくなる。

そのことは生前のショパンもよくわかっていて、「あの人ときたらあたりかまわず自分の爪痕を残したがる」という尊い言葉も残している。苦笑するフレデリクの表情が浮かんでくるようだ。

リストの音楽は、時に過剰だと言われる。でもこのレイフ・オヴェ・アンスネスの演奏を聴くと、ショパンの表現した音楽を絶対のものとしてリスペクトしていたのリストの慈愛のようなものが伝わってくる。評伝『F. リストによるF. ショパン』と同じように、リストにとっての編曲とは、自分の言葉(音)で他者を理解しようとする試みなのかもしれない。

リストの功績の最たるものは、「名作を後世に残した」ことだと思う。

もちろん、若い頃には自己顕示欲も多分にあっただろうが、それだけで人が創作を続けることなどできない。リストは最初の妻だったマリー・ダグーに「自分は失敗した天才だ」という言葉を残しているが、その自覚がある分、芸術のために身をささげることができたんじゃないだろうか。

私は、そういう完璧じゃない、愛情に満ちたリストに心から共感する。その共感が小説を通して、たくさんの人の心に届けばいいなと願っている。

クラシック・プレイリスト、次回の担当分は2022年8月2日よりオンエア予定。テーマは「美しき夜」です。

毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。

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