本日28日、新潟とびわ湖を皮切りに「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017」が開幕する。
1995年、フランス・ブルターニュの都市ナントで生まれたクラシック・フェスも、日本上陸から早いもので13年目。ナントの姉妹都市、そして私の故郷である新潟での開催も8年目となる。
45分程度(=休憩なし)のコンサートがおよそ150公演(新潟は30公演)、朝から晩までタイムテーブルから聴きたいライヴを選んでハシゴする「フェス」のスタイルも定着し、毎年家族や友人が心待ちにしてくれる、私にとっても宝物のような音楽祭だ。
新潟会場キオスク(無料交流ステージ)
「ラ・フォル・ジュルネ」というタイトルは、直訳すると「狂った日々」。もちろん、モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』のサブタイトルが元ネタだ。
複数会場での同時開催、低料金、屋台での飲食やグッズ展開といったラ・フォル・ジュルネの「フェス」スタイルは、クラシック音楽業界の常識をひっくりかえすような発想。音楽祭の創始者ルネ・マルタンは以前、「フランス革命の原動力となったオペラにあやかって」このタイトルをつけたと教えてくれた。
Nouveau logo de La Folle Journée de Nantes
数年前、『花園magazine』に寄稿したエッセイを一部引用しよう。
今年の「サクル・リュス(ロシアの祭典)」(4/27~5/5)も成功裡に終幕したが、よく晴れた最終日にはじめて遊びにきてくれた家族や友人たちが、 「なんてあたたかい雰囲気なの、街中が、音楽でいっぱいで」 とはしゃいでくれたことがなによりうれしかった。 クラシック・ソムリエとしての仕事でも、すばらしい出会いがたくさんあった。
みんなの感動ポイントがまた、新鮮だった。 もちろん、最高の盛り上がりを見せたラストコンサートの音楽や、指揮者とソリストとのハグ、5000人のスタンディング・オベーションなどはいうまでもない。でもたとえばまず、駅のコンコースからさっそく演奏があることだったり、仲通りの街灯にブーケがつるされていることだったり、広場の屋台でロシア料理やガレットやシードルが楽しめることだったり、会場ひとつひとつ「リュス」にちなんだ名前がついていることだったり、前の公演が長引いて遅れてくる人を待つ「遅延」があったりすること――そうした“心意気”ひとつひとつに感動してくれる人の存在は、いつだって、わたしが書くことの根底にある。
『フランス的クラシック生活』(PHP新書)などを読んでくださった方には周知の事実だけれど、わたしにとってこのフェス――そしてフェスの生みの親ルネ・マルタンに出会ったことこそが、音楽ライターとしての第一歩だった。
たったひとりの人物との出会いが、人生を変えてしまうことってある。 もしも2005年のラ・フォル・ジュルネに客として足を運ばなかったら、ルネにその“精神”を教わらなかったら、わたしはいまもたんなるOLだったかもしれないし、よくても業界御用達売文業者で終わっていただろう。
ルネの精神とは、こういうものだ。 「音楽を、すべての人と分かち合いたい(partager)」 シンプルだけれど、すごくフランス的だとおもう。 歴史オタクとしては、すぐにあの言葉が浮かぶ。 「自由、平等、友愛」 この「友愛」の部分が、ルネのいうpartagerにはたっぷりつまっている。
「たとえばU2のコンサートに3万人が熱狂するのに、モーツァルトにできないはずがないだろう? 音楽が本当に好きな人は、ジャンルが違っても一流のものをわかってくれる。だからこそ僕はpartagerするんだ」
そういうルネを、わたしは心から敬愛している。
ラジオ出演時、満面の笑みのルネ・マルタン(中央)
というわけで、私はもう12年もこの音楽祭に関わっている。ルネ・マルタンの連載を担当するほか、各種メディアでコラムを執筆させていただいたりナビゲーターをさせていただいたり、関連イベントに出演させていただいたりと様々だが、今年は基本に立ち返って「乙女のラ・フォル・ジュルネ案内」的なガイドも復活してみたい。
私が楽しみなのは、なんといってもルネが提案する、年ごとのテーマだからだ。
「ベートーヴェン」や「モーツァルト」はもちろん、「バッハとバロック」「シューベルトのウィーン」など、時代や都市そのものまでが主役となりうる。テーマにぴったりのお洋服を選んだり、幕間のおしゃべりのためにそれっぽいカフェを選んだり。ひとつのテーマから衣食住まで、イマジネーションが広がっていく――そういうあたりまえの文化の楽しみ方(アール・ドゥ・ヴィーヴル)を、クラシック音楽でも実践できる。その勇気を、私はラ・フォル・ジュルネによって与えられたからだ。
2017年のテーマは、「ラ・ダンス(舞曲の祭典)」。
これまでもご紹介してきたとおり、「音楽とダンスが、いかに強い絆で結ばれているか」をテーマに、バロックから21世紀の現代音楽に及ぶ多様な「ダンス・ミュージック」を「耳で」味わう、ワクワクするような試みになっている。
なにしろ中世の貴族の宮廷では舞踊が盛んで、これを伴奏するために生まれたのが楽団だったのですから。
バロック時代になると、ラモー、ヘンデル、バッハといった音楽家たちが、ダンスの伴奏曲以外の音楽に、ダンスの「リズム」を取り入れていきました。いわば“器楽のためのダンス・ミュージック”。ベートーヴェンやシューベルト、ショパンらの時代になると、それらは伴奏というくくりから、いっそう解放されました。(中略)
ブラームスやドヴォルザーク、そしてバルトークらは、ダンスのルーツである民族音楽の「リズム」を追求しました。19世紀末のロシアでは、チャイコフスキーの《白鳥の湖》《くるみ割り人形》など、バレエ音楽の傑作が次々に生まれました。
やがて、名高い「バレエ・リュス」と手を組んだストラヴィンスキーは、3つの画期的な作品を世に問い、ダンスの歴史に革新的な足跡を残しました――《火の鳥》《ペトルーシュカ》、そして《春の祭典》です。
後半では、実際にどんな音楽が演奏されるのかを、時代背景やヴィジュアル、ファッション&フードのおすすめとともにご紹介していきたい。
また、新潟・東京の2会場でみなさまにお会いできる機会を、今年もいただいている。チケットの入手などがすこし億劫だった方にも、まずは試しに会場に訪れて、「音楽の楽園」を覗いてみてほしい。
このガイドが、そんなきっかけになれば幸いです。
■ラ・フォル・ジュルネ新潟2017
4/28(金)-30(日) りゅーとぴあ/新潟市音楽文化会館/燕喜館
会場で配布中の「公式ガイドブック」巻頭コラムを担当しています。公演選びの参考に、ぜひご利用ください。
「テアトルラウンジ」(無料)
日時:4/29(土)13:30- /16:00- 4/30(日)12:30- /15:00-
会場:りゅーとぴあ2F 劇場ホワイエ
本公演出演アーティストをゲストに迎え、公演の聴きどころやラ・フォル・ジュルネへの思いをわかちあう、公開トークイベント。共演は今年も、FM PORTの人気パーソナリティ遠藤麻理さん。漫才的女子トーク(?)にもご期待ください!
■ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017
5/4(木祝)-6(土) 東京国際フォーラム
「ソムリエカウンター」(無料)
日時:5/5(金祝) 15:00-17:00会場:東京国際フォーラム ガラス棟B1F チケットカウンター横
12年目のソムリエール、今年も楽しみにしています。質問がなくても、交流こそが喜び。みなさまどうぞ、お気軽にお声かけください!
- アーティスト: オムニバス(クラシック),ダニエルズ(デイヴィッド),マルティーニ,ラモー,モーツァルト,オグデン(クレイグ)
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