10月の声を聞くと突然、紅茶の味が恋しくなる。
すっかり夏の顔をしていた9月が終わりに近づき、朝晩が急に涼しくなって、肌掛けの上に毛布を添えたりする。そういう、秋のはじまりの儀式が、今年はたまらなくいとおしい。
クラシック音楽の世界でも、10月は新シーズンのはじまりである。シーズン初日の劇場は着飾った人々で華やぎ、海外の名門も続々来日する。オーケストラのラインナップも続々発表、いそいそと鑑賞計画を立てる人も多いだろう。気忙しい季節だからこそ、ふとした日常ではゆっくり深呼吸するような音楽を愛でたいと思う。
そんなとき、私の耳はいつもチェロの音を求める。人の声のように温かく、私たちを包みこむ音。深まる秋に寄りそう音楽を、注目のアベル・セラオコーを中心にご紹介していきたい。
秋の日のチェロ──アベル・セラオコー バッハ: 無伴奏チェロ組曲 他
https://note.com/_maitakano/n/nae58390437b3
今回取り上げたのは、大好きなチェロ。「楽器特集が聴きたい」というリスナーからのメッセージに応えるべく、少女時代のミッシャ・マイスキーへの憧れを含め、チェロの魅力をさまざまな角度で語り合った。(放送時の「夏の終わりのチェロ」より改題)
なかでも絶対に聴いてほしかったのが、アベル・セラオコーのバッハ: 無伴奏チェロ組曲第6番 サラバンド(弦楽合奏編曲版)。南アフリカ出身というルーツと連なる「重音」で空気を深く震わせ、心の奥深くまで染み入る彼の演奏に、はじめて聴いたときから魅せられつづけている。
その響きはまさに敬虔な祈り。声とチェロを媒体とし、人間のむきだしの祈りを伝えるアベルの音楽は、私たちを日常や思いこみから解放してくれるだろう。
クラシック・プレイリスト、次回は10月の「東欧への旅」(※放送終了)。毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局とradikoタイムフリーでもお聴きいただけます。