まもなく10月。芸術の秋であり、旅に出かけたくなる行楽シーズンでもありますよね。
10月21日(土)、作曲家・林そよかさんとの音楽講座「お茶会クラシック」第3回では、そんなふたつの願望を実現できる「リストとショパンとパリの夜」を開催することになりました。
【お知らせ】麻衣とそよかのお茶会クラシック 第3回「リストとショパンとパリの夜」開催 – Salonette
舞台は、19世紀パリ社交界。正反対のキャラクターながら、「音楽」という目的のもと認め合っていた“最強バディ”リストとショパンを、時代背景や大好評「ミニ作曲講座」で読み解く――紅茶とフランス菓子も提供され、秋のパリ時間旅行という趣きです。
「10月22日生まれの作曲家フランツ・リスト生誕前日祭も楽しみましょう!」と呼びかけたところ、有難くも好評受付中。愛いっぱいでお送りしたいとはりきっています。
今月の「クラシック・プレイリスト」では、そんなふたりの名曲を解説(萌えがたり)。イベントの雰囲気を、ひと足早く少しだけ、全国のリスナーの皆さんへご紹介させていただきました。(以下、書き起こし)
1) リスト:ハンガリー狂詩曲第2番(9/19放送分)
高野麻衣:今日は、リスト作曲「ハンガリー狂詩曲第2番」をご紹介します。
朝倉あき:どんな曲でしょうか?
高野:まず、あきさんにリストの肖像画を見ていただきたいのですが、いかがでしょう?
あき:すらっとして、目力があって……率直に言ってイケメンですね!(笑)
高野:ですよね!(笑) アンリ・レーマンが描いたこの肖像画は、リスト28歳のときのものです。横向きに立ち、長い指で腕を組み、強い眼差しでこちらを見つめる青年。秀でた頬、貴族的な鼻に、まっすぐな眉と青緑色の大きな瞳、濃いブロンドの長髪……なんだか少女小説の描写をしているみたい。おまけに185センチの長身に、いつも黒い服を纏っていたそうで。完璧ですよね。
この雰囲気、じつはリストが「ハンガリー生まれ」を強調する「パリの異邦人」だったのも関係しているのかな、と私は思うんです。すこしエキゾチックな美貌もまた、「リスト・マニア」と呼ばれた“追っかけ貴婦人集団”を生んだ一因だったんじゃないかと。
あき:ハンガリー生まれ! ぜんぜんイメージにありませんでした。
高野:ですよね。リストの故郷の町はハンガリーといっても、現在ではオーストリアに位置するドイツ語圏。しかも彼は、幼少時代からモーツァルトのようにヨーロッパ中で演奏活動をしていた国際派です。12歳からはパリが拠点でしたから、じつは生涯ハンガリー語を話さなかったそう。しかし、「ハンガリー生まれ」というアイデンティティを大切にしていたんです。
本日ご紹介する「ハンガリー狂詩曲第2番」は、リストがハンガリーの民謡から着想した曲。彼は15歳でプロデューサー役のお父さんを亡くしてから、お母さんと自分の生活を支えるためにセルフプロデュースに切り替え、見事パリで成功した――そういう甲斐性というか、サバイバル能力が男らしくて、私は大好きなんですが(笑)、この曲もそうしたプロデュースの一環だったのかもしれませんね。
あき:なるほど、サバイバル力か。最後にリスナーに向けて、聴いてほしいポイントをお願いします。
高野:狂詩曲(ラプソディ)とは自由で即興的、ある意味ロックな音楽です。美貌の青年ピアニストが髪を振り乱して演奏する姿を思い浮かべ、「考えるな、感じろ」という気分で聴いてみてください!
2) ショパン:「12の練習曲 作品10」より第10番(9/20放送分)
高野:今日は、ショパン作曲「12の練習曲 作品10」より「第10番」をご紹介します。
あき:どんな曲でしょうか?
高野:はい、まずは時代背景ですが、リストやショパンが活躍した19世紀前半は、現在のピアノの形が完成し、新しい社交界の中心である中産階級のあいだでステータス・シンボルになった時代でした。ふたりの作曲家は、貴婦人のサロンに招かれたりリサイタルという形で人を集めたりと、現代のピアニスト以上にアイドル的人気を誇りましたが、一方でお嬢様たちにピアノのレッスンをすることや、練習曲集を出版することも重要なお仕事でした。握手会(?)やグッズ販売の元祖ですね。
ショパンのエチュードもまた、こうした練習曲集のひとつです。3分程度の曲が12曲連なった曲集が2つあり、それぞれ作品10、作品25と呼ばれていますが、この曲は作品10の10番目。軽快で華やかな、隠れた名曲です。
あき:この曲には、ふたりのどんなエピソードが隠されているのでしょうか?
高野:ふたりが出会ったのは1832年頃。ショパン22歳、リスト21歳でした。年は1つ下ですが、リストはすでにパリ社交界の人気者。ショパンはパリ・デビューしたばかりです。ショパンが社交界に出入りするようになると、同世代の綺羅星のような音楽家たち――当時23歳で作曲家・指揮者として活躍中のメンデルスゾーンや当時29歳のベルリオーズたちと知り合いますが、なかでも、ほぼ同い年で同じピアニストであるリストとは、プライベートでもアパートの鍵を預けるほど親しい交友に至ります。
といっても、社交的で世話焼きのリストが、引きこもりがちのショパンの面倒みたがった、というのが真相だったのかもしれませんね。リストはパワー派のロック、ショパンは繊細な弾き語りというイメージで、ふたりは演奏も性格も対称的でした。
自分にない物を持っている、ということはお互いよい刺激になったようで、ショパンはこの「練習曲集作品10」を、なかば挑戦的にリストに献呈したのです。当時リストは「どんな難曲でも初見で弾ける」と豪語していたそうですが、ショパンの練習曲集はすぐには弾けず、ショックを受けて身を隠し猛特訓。数週間後、完璧に弾いてみせたと伝えられています。男子同士のこういうかんじ、いいですよね。
あき:殴り合って仲を深める、みたいな。すごく理想的ですね(笑)。最後にリスナーに向けて聴いてほしいポイントをお願いします。
高野:リストが羨んだショパンの「詩的な情感」、そして19世紀パリ社交界の華やかな雰囲気を愉しんでください。
3)ショパン:「12の練習曲 作品10」より 第12番「革命」
高野:今日は、ショパン作曲「12の練習曲 作品10」より第12番「革命」をご紹介します。
あき:どんな曲でしょうか?
高野:タイトルだけでピン!ときた方も多いのではないかと思います。昨日ご紹介した「12の練習曲 作品10」――リストに献呈された練習曲集のなかでも最も有名な、ショパンの代表曲のひとつ。激しい和音ではじまる、劇的な音楽です。
あき:昨日の第10番にはタイトルがなかったのに、なぜこの曲には革命というタイトルが?
高野:じつはそこに、リストが絡んでいるという説があるのです。
19世紀は、革命の時代。フランス革命から半世紀を経て、19世紀のヨーロッパでは各地で独立を目指す動きが活発化し、ロシアの支配下にあったショパンの故郷ポーランドもまた、例外ではありませんでした。若きショパンは、そんな不安定な故郷から亡命するような形で、当時音楽の中心地だったパリへ上京。1830年のワルシャワ蜂起が失敗に終わったとき、帰れない故郷への思いをこめて作曲されたのが、この「革命」だったとされています。
ショパン自身は、こうしたタイトルをつけることに興味がありませんでしたが、ほとばしる情熱と苦悩を思わせる旋律、そして作曲時の逸話から、演出上手のリストがつけたサブタイトルと言われているのです。
あき:なるほど、納得です。最後にリスナーに向けて聴いてほしいポイントをお願いします。
高野:超有名曲ですが、ショパンの若き日の知られざる苦悩や、それを知ったときのリストの気持ちなど、想像(妄想)が広がる1曲です。新鮮な気持ちでどうぞ!
4) リスト:コンソレーション 第3番(9/22放送分)
高野:今日は、リスト作曲「コンソレーション 第3番」をご紹介します。
あき:どんな曲でしょうか?
高野:1849年、ショパンの死の年、リストが作曲したとされる美しい旋律です。コンソレーションとは「慰め」という意味。過ぎし日の夢を追うようなノスタルジックな名曲で、最終日はやはり、この曲しかありません。
あき:ショパンの死の年……この曲には二人のどんなエピソードが隠されているのでしょうか?
高野:これまでご紹介したように、リストとショパンは、まったく正反対な性格や音楽スタイルを持ちながら、親密な友情を築いていきました。それは1836年、ショパン26歳の時、リストの愛人マリー・ダグー伯爵夫人のサロンでジョルジュ・サンドを紹介されるあたりでピークを迎えます。しかしこれは「終わりの始まり」でもありました。男同士の絆に女性が入り込むのは、危険です。
あき:ああ……。
高野:さまざまな不和がきっかけとなり、結局彼らは袂を分かつことに。そうして十数年のち、ショパンは39歳でこの世を去ります。
リストのファンとしてたまらないのは、ここからです。長生きしたリストは、若かりし日のヤンチャも落ち着いて人格円満、ヨーロッパ音楽界のゴッドファーザーのような重鎮となります。音楽も、テクニック重視の派手なロックから一転、思索的な宗教曲なども手掛けるようになり、娘婿となったワーグナーなど後進の援助をしたり、文筆家としても活躍しました。その代表作がショパンを描いた評伝『F.ショパン』でした。その初版本の表紙の下にはタイトルより少し小さなフォントで「F.リスト」。その冒頭は「ショパン!穏やかで、調和のとれた天才」という言葉ではじまっています。こんなにロマンチックな逸話、音楽史のなかで、ほかにないように思うのです。
あき:最後にリスナーに向けて聴いてほしいポイントをお願いします。
高野:「コンソレーション」が「リストからショパンへのラブソングだよ」と教えてくれたのは、フランス人のハープ奏者シルヴァン・ブラッセルさんでした。
「リストは、ショパンの死の翌日、かつての盟友への思いを音楽に託した。これはリストのラブソングなんだと思う 」
シルヴァンの演奏を聴いたとき、その音につまったやさしい悲しみが、まるでモノクロームがカラーに変わるようにあざやかに浮かび上がり、「リストって、なんて複雑で、せつない男なんだろう」と涙が止まりませんでした。
みなさんにも、そんな瞬間が訪れることを願います。
Franz Liszt – Consolation No. 3 – Sylvain Blassel, harp
というわけで、“音楽史上最強バディ”の名曲を解説(萌えがたり)した、今月の「クラシック・プレイリスト」。朝倉あきさんにも「ものすごい沼ですね」と言わしめた「リストとショパンとパリの夜」、本番ではこれらの曲を、林そよかさんの生演奏で楽しんでいただきます。
秋の午後にぴったりのお茶会クラシック、ご予約は下記ホームページか電話(☎03-5949-5483)にて、お気軽にどうぞ。
池袋コミュニティ・カレッジ | セブンカルチャーネットワーク
Tokyo FM「Memories & Discoveries」は毎週火〜金 朝5時10分頃、JFN系列32の全国のFM局で放送中。高野出演の「クラシック・プレイリスト」は5:10頃からスタートですが、インターネットでは、いつでも全世界でお聴きいただけます。
次回はアートと名曲の異色コラボを特集予定。どうぞお楽しみに!
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