いよいよ11月。芸術の秋ですね。
Tokyo FMほか全国38局で放送中のラジオ『Memories & Discoveries』。
今月の「クラシック・プレイリスト」では、この秋ワーナーミュージックから発売された名曲シリーズ「アーブル美術館」プレゼンツ「クラシック音楽の或る棚」から、お気に入りの4枚をご紹介いたしました。
「アーブル美術館」とは、ルーブル美術館に憧れる館長・藤原晶子さん(お母さん)と現在小中学生の兄妹(子どもたち)3人で構成されるアートユニット。段ボールの裏などに模写した世界の名画の「贋作」が大人気、各地で「大贋作展」を開催するほか、私も大好きな映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』とのコラボでは実寸と同じクリムトの「贋作」も制作し、大きな話題となりました。
今回ご紹介したのは、その「アーブル美術館」の絵画をジャケットに起用した、クラシック音楽シリーズ。音楽のみならずアートも愛する高野が全25作の解説を執筆しました。
じつは昔から、クラシックのCDジャケットに名画が使われることはよくあるのですが、今回のシリーズは収録された「名曲」もバラエティ豊かで、たとえばナポレオンの肖像画にベートーヴェンの「英雄」、という定番もあれば、「なんとなく絵と曲の雰囲気が合うよね~」というゆるいセレクトもアリ。
そしてなにより、グッズとしてすごくかわいいのです!
思わず並べてコレクションしたくなる“額縁型デザイン”。レコメンドした4曲は、CDを並べたときのバランスも考慮して選びました。
全25作のうちほんの少しだけ、皆さまへご紹介いたします。(以下、書き起こし)
1) ムソルグスキー:展覧会の絵~プロムナードⅠ/グノーム(11/7放送分)
高野麻衣:今日は、ムゾルグスキーの名曲『展覧会の絵』から、冒頭の2曲をご紹介します。ジャケットは名画の代名詞、フェルメール『真珠の首飾りの少女』!
朝倉あき:この絵、ほんとうにかわいい! 『展覧会の絵』って、あの名曲ですよね?
高野:そう、“あの名曲”です。この曲が実際に、展覧会の絵を見た印象を音楽にしたものだってご存知でしたか?
あき:それは知りませんでした!
高野:『展覧会の絵』は1874年、まずピアノ組曲として誕生しました。作曲したのは、ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキー(Modest Petrovich Mussorgsky, 1839-1881)。「ロシアの五人組」と呼ばれた気鋭の音楽家グループのひとりです。
ムソルグスキーには、ハルトマンという画家の親友がいました。ハルトマンは挿絵を中心に多彩な活動をしていましたが、39歳の若さで急死。ムソルグスキーは大きなショックを受け、自責の念で落ちこみました。そんなとき、ふたりの共通の友人が遺作展を開催。ロシアだけではなくフランス、ローマ、ポーランドなどさまざまな国の風物が描かれたハルトマンの絵画に刺激を受け、ムソルグスキーは『展覧会の絵』を完成させたのです。
音楽はまず、「第1プロムナード」と呼ばれる短い前奏曲ではじまります。その後、1曲目のミステリアスな「グノーム(小人)」、そして「第2プロムナード」をはさんでエキゾティックな「古城」……という具合に、「プロムナード(フランス語で散歩)」とハルトマンの絵を題材にした音楽がほぼ交互に現れるのが特徴なんですよ。
あき:わあ、そうだったんですね! 聴いてほしいポイントも教えてください。
高野:『展覧会の絵』は、古今東西の音楽家によりさまざまなアレンジがされているのも特徴。本日の演奏は、フランスの作曲家ラヴェルが手がけたオーケストラ版の流麗なファンファーレからはじまります。おなじみの名曲ですが、じっくりと聴き直して、150年前の芸術家たちの友情の物語を感じてみてください。
「アーブル美術館」プレゼンツ「クラシック音楽の或る棚」名曲シリーズ 1 ムソルグスキー:「展覧会の絵」
- アーティスト: オムニバス(クラシック),ムソルグスキー,ラヴェル
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2017/09/13
- メディア: CD
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2) グリーグ:劇不随音楽「ペール・ギュント」~山の魔王の洞窟にて(11/8放送分)
高野:今日は、ノルウェーの作曲家グリーグの名曲『ペール・ギュント』から、「山の魔王の洞窟にて」をご紹介します。ジャケットは、同じノルウェーの画家ムンクの『叫び』!
あき:出ました、『叫び』! 「魔王」というタイトルにも合っていますね(笑)
高野:そうなんです。エドヴァルド・ハーゲルップ・グリーグ(Edvard Hagerup Grieg, 1843-1907)の劇付随音楽『ペール・ギュント』といえば、なんといっても「朝」が有名だと思うのですが、今回はこのジャケットに合わせて「魔王」を選びました。
あき:なるほど。「劇付随音楽」というのはなんですか?
高野:演劇のための音楽、いわゆるサントラのことです。『ペール・ギュント』は、これまた同郷ノルウェーの劇作家イプセンによる戯曲でした。1874年、その作品を舞台上演することになったイプセンは、当時31歳で、作曲家として名を上げつつあったグリーグに作曲を依頼しました。物語のあらすじは……もう、ペールって男どうなの?という感じなんですけど……。まず、落ちぶれた豪農の息子ペール・ギュントが、かつての恋人イングリを結婚式から奪取して逃亡するところからはじまります。しかしペールは、イングリに飽きると彼女を捨て、刺激の強い冒険を求めて魔王の住むドブレ山へ。
あき:え?
高野:山の魔王の洞窟に乗り込んで危機一髪、魔王の娘の婿になると申し出て助かるもまもなく逃亡。
あき:え、え?
高野:なんとか実家に身を寄せますが、老いた母はまもなく亡くなってしまう。心機一転、アフリカで新しい人生を開拓しようとするペール。モロッコの砂漠で、美しい朝の情景を迎え、やがてベドウィン族の美しい娘アニトラに誘惑され、官能的な生活へ。長年の冒険の果てに、カリフォルニアの金鉱で巨万の富を得た老境のペールは、ようやく帰郷。彼をずっと思っていた女性ソルヴェイグのもとに辿りつきます。そして子守歌を歌ってもらいながら、静かに永眠。
あき:たしかにはちゃめちゃですね……。「クラシック・プレイリスト」のおかげで、オペラなどへのツッコミどころの多さには慣れたつもりでしたが、それでも驚きました(笑)
高野:ま、荒唐無稽な物語ではありますが、グリーグの音楽はそれを補ってあまりある魅了ということで(笑)。なかでも「朝」は、小学校の朝の音楽でおなじみだったという人も多いですよね。劇中では、じつはモロッコの砂漠の朝を描いているんです。
あき:音楽を聴くと、冷えた北欧の朝の風景のようですよね。
高野:今日の「山の魔王の宮殿にて」も、映画やTVドラマなどのBGMとしては人気です。指揮は、イギリスの巨匠ジェフリー・テイト。彼自身はノルウェー人ではありませんが、北欧音楽の演奏が十八番。北欧の風、ぜひ感じてください!
「アーブル美術館」プレゼンツ「クラシック音楽の或る棚」名曲シリーズ 12 グリーグ:ペール・ギュント
- アーティスト: ジェフリー・テイト,グリーグ
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
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3)バッハ:管弦楽組曲第2番~ポロネーズ&ドゥーブル(11/9放送分)
高野:今日は、バッハの名曲『管弦楽組曲第2番』から、「ポロネーズ&ドゥーブル」をご紹介します。ジャケットは、印象派の画家マネの『笛を吹く少年』です。
あき:これまたかわいいですね!
高野:この第18集は、バッハやモーツァルトから20世紀ソビエトの音楽家ハチャトゥリアンまでがつまった「フルート名曲集」なんです。フルートは、息を吹き込んで音を出す管楽器。子どもの頃、ブラスバンドなどで身近に接した方も多いと思います。そうでない方も「銀色で高い音がする金属の横笛」というイメージをお持ちだと思いますが、じつは木管楽器の仲間です。このマネの絵を見ると、「かつては木製だった」ことがわかりますよね。
あき:あ、ほんとうだ。名画からそんなこともわかるんですね!
高野:音楽家たちのなかでも、フルート奏者のレパートリーを数多く手がけたのが、あのヨハン・セバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)。管弦楽組曲第2番の「ポロネーズ&ドゥ―ブル」や「バディヌリ」は、フルート・ソロの代名詞的存在です。フルート演奏は、当時の王侯貴族の嗜みでした。たとえばプロイセン国王フリードリヒ2世は音楽好きで、フルートの名手としても有名でしたが、バッハの宮廷音楽に登場するフルートは優雅で威厳に満ち、まさに王者の楽器にふさわしい佇まいです。
あき:フルートの印象が変わりそうです。聴いてほしいポイントも教えてください。
高野:このアルバムの主役は、フランスのフルート奏者ジャン・ピエール・ランパル。1922年マルセイユに生まれた彼は、2000年にこの世を去るまで「フルートの帝王」と呼ばれた巨匠のひとりでした。リッチな音色、卓越した技巧、そしてまさに王者のようなスケールの大きさ――輝く太陽のような彼の演奏を、お楽しみください。
「アーブル美術館」プレゼンツ「クラシック音楽の或る棚」名曲シリーズ 18 フルート名曲集~ベスト・オブ・ランパル
- アーティスト: ジャン=ピエール・ランパル,バッハ
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
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4)ホルスト:組曲「惑星」~木星-快楽の神(11/10放送分)
高野:今日は、ホルストの名曲『惑星』から、「木星-快楽の神」をご紹介します。ジャケットはなんと、俵屋宗達による国宝『風神雷神図屏風』! すてきでしょう?
あき:すてきです! 風神と雷神はかわいいのに、背景はきちんと金箔のように作りこんであって本格派。宇宙つながりですね!
高野:そう、宇宙つながりの日英コラボです。『惑星』を作曲したのは、イギリスの作曲家グスターヴ・ホルスト(Gustav Holst, 1874-1934)。音楽教師として勤めながら、作曲活動を行っていました。1913年頃、占星術への傾倒がきっかけとなって、代表作の組曲『惑星』を作曲。たちまち成功を収めました。『惑星』はいまや、イギリスの管弦楽曲を代表する曲です。
音楽は、作曲当時太陽系の惑星として知られていた8つの天体のうち、地球を除いた7つの天体(水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星)に1曲ずつ割り当てられ、それぞれの星の語源となったローマ神話の神の性格を表すサブタイトルがついています。第4曲「木星-快楽の神」は、最も有名なメロディですね。
あき:日本ではなんといっても、平原綾香さんのデビュー曲「Jupiter」(2003年)が有名ですよね。私も大好きな曲です。
高野:はい。数多くのカバー作品のなかでも、ホルストのセルフカバーとも言える管弦楽付きコラール「我は汝に誓う、我が祖国よ」は最も重要です。第一次世界大戦下の休戦協定記念式典で演奏されて以降、イギリスでは戦没者追悼の歌として歌われるようになりました。1926年には、英国国教会の聖歌として賛美歌集に収録。ホルストの友人ヴォーン・ウィリアムズによって『サクステッド』と名付けられました。1997年に急逝した王太子妃ダイアナも、この聖歌を好んだとされています。結婚式で演奏されたほか、葬儀の際にも長男ウィリアム王子の要望で演奏されたんですよ。
あき:イギリスでも愛されている名曲なんですね。最後に聴いてほしいポイントを教えてください。
高野:本日は、本家英国のBBC交響楽団の演奏でお送りします。指揮も、近代イギリスものを得意とするアンドリュー・デイヴィス。宇宙に託した平和への願い、感じながら聴いてください。
そしてぜひ、かわいい宇宙をあなたのお手元にも置いてくださいね!
「アーブル美術館」プレゼンツ「クラシック音楽の或る棚」名曲シリーズ 25 ホルスト:組曲「惑星」
- アーティスト: アンドリュー・デイヴィス,BBC交響楽団,ホルスト
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Tokyo FM「Memories & Discoveries」は毎週火〜金 朝5時10分頃、JFN系列32の全国のFM局で放送中。高野出演の「クラシック・プレイリスト」は5:10頃からスタートですが、インターネットでは、いつでも全世界でお聴きいただけます。
次回はシーズン本番! フィギュアスケートの世界を特集予定。どうぞお楽しみに!park.gsj.mobi
- アーティスト: オムニバス(クラシック),リスボン・グルベンキアン財団合唱団,ミシェル・コルボ,リスボン・グルベンキアン財団管弦楽団,ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団,モーツァルト,グノー,プッチーニ
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
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