Memories & Discoveries 21/09「作曲する女たち」

声優・早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。 9月のテーマは「作曲する女たち」。

バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン……。昔、音楽室に並んだ作曲家たちの肖像画には、女が一人もいなかった。では作曲する女がいなかったかといえば、そんなわけがない。人類の半分は女性なのだ。多くの芸術がそうであるように、音楽の世界にも「女だから」という理由で世に出ることができなかった--あるいはゴーストライターとなった女たちがいる。

この秋、彼女たちの作品を集めたアルバムが多数リリースされる。ご自身も「作曲するアーティスト」である早見さんとともに、知られざる女性作曲家の世界を語り合った。

1) ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:オ・フロンデンス・ヴィルガ(9/14放送分)

1日目は、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んだエミリー・ダンジェロのデビュー・アルバム『enargeia』から。エミリーはトロント生まれの26歳、強い眼差しも印象的な、新進気鋭のメッゾ・ソプラノ歌手である。

『enargeia』は、女性作曲家に焦点を当てたユニークなアルバムだ。エミリーが最初にインスピレーションを与えられたのは、12世紀の女子修道院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲンだったという。

「中世ヨーロッパ最大の賢女」と呼ばれたヒルデガルトは、作曲家であり、薬草学の祖でもある(ドイツのメーカーSONNENTORのハーブティシリーズHildegard’s Teaはこの人のレシピ)。彼女が聖母マリアに捧げた聖歌を聴いていると、礼拝堂の静けさとフランキンセンス(乳香)の香りが甦るようだ。

現役の作曲家ミッシー・マッツォーリとサラ・カークランド・スナイダーによる最新の編曲もいい。彼女たちののオリジナル作品、オスカー賞受賞のヒドゥル・グドナドッティルによる魅力あふれる声楽作品も収録。ぜひチェックを。

2) ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:黄昏が空から降り(9/15放送分)

2日目はファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの1曲。ファニーはドイツのピアニストにして指揮者、フランスのルイーズ・ファランクとともに19世紀前半に活躍し、600曲以上を遺した女性作曲家のパイオニア。このテーマで、最も描きたい人物だ。

名前からわかるとおり、作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの姉である。ハンブルクの上流階級に生まれ、弟ともにピアノや音楽理論などの教育を受けた。そして弟と同じように幼少期から才能を発揮し、作曲も始めたが、やがて父親に「お前は弟の天才が理解できるのだからそれで満足しなさい」と告げられる。なんて残酷。父の勧める貴族ではなく、自分の音楽を理解してくれる画家ヴィルヘルム・ヘンゼルと結婚したことは、彼女のせめてもの抵抗だったのかもしれない。

弟フェリックスとの関係性も複雑だ。二人は膨大な往復書簡を残している。姉が弟の音楽を愛したように、弟は姉の才能を理解し評価したが、姉が職業芸術家として活動することには反対した。双子のように才能を分かち合った姉を弟がどう思っていたのか、とても気になる。

ファニーは41歳で脳卒中に斃れ、彼女を追うようにフェリックスも脳卒中で急逝した。姉の遺稿を整理している最中だったという。

3) アリス=紗良・オット:ララバイ・トゥ・エタニティ(9/16放送分)

最終日は、ポスト・クラシカルとのコラボや作曲でも知られるピアニスト、アリス=紗良・オットの新譜から。3年振り10枚となる『Echoes Of Life』で彼女は、独自の視点からショパンの傑作『24の前奏曲 Op.28]に挑んだ。

曲の合間に7つの現代作品を間奏曲のように挿入するという、彼女らしい個性的なコンセプト。盟友トリスターノの書き下ろ「イン・ザ・ビギニング・ワズ」にはじま、リゲティ、ニーノ・ロータ、ゴンザレス、武満徹、アルヴォ・ペルトらの新しい音が、ショパンと響き合う。

ラストを飾るのは自作。ショパンが「自分の葬儀で演奏してくれ」と言い遺したモーツァルトのレクイエムが基になっている。作曲家への敬愛に満ちた、密やかな子守歌だ。

 

女性作曲家、そして女性の聴衆の歴史は、若い頃からずっと温めつづけているテーマ。

今回の放送もとても反響があったようなので、やっぱり本にしたいという気持ちが高まっている。女性だからこそ語り直したい「音楽史」が、まだまだたくさんあるのだ。

これまで声をかけた出版社には、「クラシック書籍は男性向けなので」という理由で断られてきた。でも、それじゃあずっと「男性向け」のままになっちゃうよね、と疑問に思う。現実はまったくそうじゃないのに。

だからわたしはエンターテインメントから闘う。魂を込めた物語を作って、早見さんに出演してもらうという約束を、絶対叶えたい。

 

クラシック・プレイリスト、次回の担当は10月26日(火)から28日(木)。テーマは、わが脚本第1作となる「F ショパンとリスト」です。

毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。

出演|Memories & Discoveries

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