Memories & Discoveries 21/08「夜空とクラシック」

声優・早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。 8月のテーマは「夜空とクラシック」。

ユニバーサル ミュージックの音楽サイト「uDiscover」で連載中の「ときめく365日のためのクラシックレシピ」第2回から、夜にまつわる3曲をご紹介した。

子どもの頃から、夏の夜は魔法のようだと感じていている。

夏至が過ぎてしばらくは、遅くまで残光の残る美しい宵空。盂蘭盆を過ぎてからは、少しずつ涼しくなる夜に感じるせつない秋の気配。夏休みの思い出とつながっている、宝物のような時間だ。

古今東西の音楽家も、きっと同じなのだろう。アーティストたちはいつも「夜空は音楽のインスピレーションをくれる」と語る。その言葉の裏には、音楽家たちの葛藤や孤独が垣間見えることも多く、深く胸に響くのだ。

早見さんの思い出話も盛り上がった、「夜空とクラシック」の世界へ飛び込んでみよう。

1) ドビュッシー作曲:ベルガマスク組曲 第3曲「月の光」(8/3放送分)

夜のクラシックの定番にして、ドビュッシー作品の中でも最も愛されている1曲。

「ベルガマスク」は「ベルガモの」、あるいは「ベルガモ舞曲」といった意味で、ポール・ヴェルレーヌの詩集『艶なる宴』に収録されている詩「月の光」に使用されている。ので、この詩が音楽のインスピレーション源なのでは、と言われている。ベル・エポックのフランスは、こうした詩や文学と音楽、あるいは絵画と音楽の綿密なつながりが魅力だ。

音源は、アリス=紗良・オットのアルバム『ナイトフォール』から。まさしく夜の音楽集。モダンなボブヘアに変えてから、ポスト・クラシカルとのコラボやクラブイベントでも活躍している彼女らしいコンセプトで、より深い詩の世界に浸れる。

(アリスの「本番前は指を温めるためにルービックキューブを揃える」「家でクラシックは聴かない」「練習するより経験する」といった7つのルールも大好き、という話をした。)

早見さんはかつて、この組曲を起床時のテーマとしてセットしていたそう。「第1曲(前奏曲)で目が覚めるけど、だいたい二度寝しちゃって、この第3曲(月の光)でようやく起きるんです」と語る彼女がチャーミングだった。

2) エイナウディ:Full Moon(8/4放送分)

「月の光」とは対極的に、森を照らす満月の光がくっきりと陰影をおとすようなギターの曲だ。

原曲のピアノ版を作曲したのはルドヴィコ・エイナウディ。1955年、イタリア大統領が祖父というトリノの名門に生まれ、ルチアーノ・ベリオに師事した音楽家である。クラシック系のルーツを持ちながら、ビートルズを愛し、ミニマルを超えた手法で映画音楽も手がける注目の人物で、ヨーロッパでは今もっともお洒落なインストゥルメンタルとして若者を中心に大人気だという。

今年のアカデミー賞で話題を独占した『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督が、自作の雄大な美しい映像に合う音楽はないかとYouTubeを漁り、彼の音楽にひと目惚れしオファーしたという現代らしい逸話もすてきだ。

演奏するミロシュは、1983年モンテネグロ生まれ。ユーゴスラヴィア内戦のさなかに少年時代を過ごしながら、2011年のデビューでセンセーションを巻き起こし、ジブリ映画『思い出のマーニー』でも注目を集めた。病気で一時活動休止したが、見事復活。本番組では、そのときのアルバム『サウンドオブサイレンス』もご紹介し、たくさんの反響をいただいた。

小川のせせらぎのように静かに、しかし奥に秘めた情熱がくすぶるような音楽は、彼の内なる「情緒」と「ドラマ」を感じさせてくれる。人生を深く味わいたい夜に、ぜひ聴いてみてほしい。

3) オーラヴル・アルナルズ:ノクターン No.20/レミニセンス(8/5放送分)

1987年アイスランド生まれで、ビョークやトム・ヨークも絶賛するポスト・クラシカルの最重要人物オーラヴルと、アリス=紗良・オットのコラボレーションで生まれた『ザ・ショパン・プロジェクト』より2曲続けて。

『ザ・ショパン・プロジェクト』は、アリスが弾くショパンにオーラヴルがストリングスなどを重ねて再創造することで、聴きなじんだ音楽に新たな光を見つけよう、というコンセプト。ショパンだと知らずに聞いてもアンビエントで美しいし、原曲のショパンの面影を探しつつ聴いても発見がある。

2曲はタイトルの通り、ショパンのノクターンの中でも、死後に発表された名曲第20番がテーマ。

1曲目の「ノクターン No.20(ナンバートゥエンティ)」には「feat.マリ・サムエルセン」とついており、これも以前番組でご紹介した注目のヴァイオリニスト。生涯ピアノに向き合ったショパンの音楽を、ヴァイオリンで聴くとどんな印象になるのか。そして、2曲目「レミニセンス」では、その音の余韻を強く反芻するとどうなるのか--という興味深い音楽実験となっている。

クラシックの強さは、何度でも生まれ変わり、新しい発見を私たちにくれること。ぜひ既成概念を忘れて、新しいショパンの世界に飛び込んでみてほしい。

 

連載第2回のプレイリストは、「月の光」ではじまり、「星に願いを」で終わるところが気に入っている。

「星に願いを」は、ディズニー映画のジングルにもなっている名曲。中盤には

人は 誰もひとり 哀しい夜を過ごしてる

という歌詞がありる。大人になってディズニーのお仕事をさせていただいたとき、この詞によって、人はみんな闇を知ってるからこそ星を信じるのだと気づかされた。

星や月は、陽光とは別のやさしさで私たちを癒し、夜明けを信じる希望をくれる。思いを込めて綴った「夜空と音楽」のコラム全文は、こちらからどうぞ。

ときめく365日のためのクラシックレシピ:夜空×クラシック【連載第2回】

クラシック・プレイリスト、次回の担当は9月14日(火)から16日(木)。テーマは「作曲する女たち」です。

毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。

出演|Memories & Discoveries

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