Memories & Discoveries 21/07「花とクラシック」

声優・早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。 7月のテーマは「花とクラシック」。

ユニバーサル ミュージックが運営する音楽サイト「uDiscoverクラシック」でスタートした新連載「ときめく365日のためのクラシックレシピ」第1回のプレイリストから3曲を、独自の視点でご紹介した。

「名盤」を聴くのも楽しいけれど、それぞれが思い思いに自分の「スタイル」で、日常のちょっとしたエッセンス――かつ、目の前の世界をまるっきり新しくしてくれる魔法のように、音楽を楽しみたい。では、自分らしいスタイルって、何?

そんな問いかけからはじまった連載では、音楽のスタイリング(レシピ)を、季節ごとのプレイリストやエピソードとともにご紹介する。たとえば第1回では、「花のワルツ」など長く愛されるクラシックの王道から、マックス・リヒターやダスティン・オハロランによるポスト・クラシック、映画音楽までをクロスオーバーにセレクトした。

早見さんとの朗読やおしゃべりを通して、「花とクラシック」がもたらす歓びをあざやかにお伝えできたようでうれしく思っている。

1) ドリーブ:歌劇《ラクメ》第1幕 ジャスミンとバラの二重唱(7/6放送分)

第1回のプレイリストのヒントは「花の力」。一つ一つの花には、種類ごとの力がある。旬の花はいつだって最強パワーを持っているが、わかりやすいのが、女性の力を最大限に引き出すとされるバラだ。4月の終わりから6月にかけて見頃を迎える花の女王には、古今東西たくさんの曲が捧げられている。

バラは、調香師が用いる香りの音階「香階」でも、はじまりの「ド」の音を象徴する花。まずはそんなバラの音楽から、花の力を感じてみよう。

個人的に、最も“効力”がありそうだと信じているのが、ドリーブの歌劇に登場する〈ジャスミンとバラの二重唱〉。インドの巫女姫が忠実な侍女とともに歌う名高い花のデュエットは、たゆたう川の流れとあいまって涼やかでかぐわしい。2つのソプラノの声が絡みあう音楽は、まさに香水のレイヤリング(重ねづけ)のよう。

2) ジョンソン:あなたは見たのか、輝く百合を(7/7放送分)

恋人は6月に咲いた 赤い赤いバラのよう
恋人は調べも美しい 甘い甘い音楽のよう

詩人バーンズの母国でもある英国には、ガーデニング大国らしい自然主義的な歌曲がたくさんある。私のお気に入りは、英国のロック・レジェンド、スティングが歌うユリの歌。その歌唱は、どこか遠い青春を思うようにせつなく甘く、エディン・カラマーゾフのリュートとともに心に染み入る。シンプルな編成だからこそ、英語の美しさも引き立つのかもしれない。

プレイリストには、ラファエル前派の画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの詩による歌曲集《命の館》から〈静かな昼〉もセレクトした。恋人との穏やかな幸福を歌う男が「僕たちの巣」と描写する草原では、プリムラやサンザシ、キンポウゲなどが花ざかりだ。

3) リヒター:25%のヴィヴァルディ Recomposed By マックス・リヒターより(7/8放送分)

この曲の原題はリコンポーズド・バイ・マックス・リヒター/ヴィヴァルディ:フォーシーズンズ(つまりマックスによって再作曲された《四季》)。

2006年からスタートしたDGのリコンポーズ・シリーズの1作として発表されたが、それまでの現代作曲家が既存の音源を使い、サンプリングで再構築したのに対し、リヒターは「音符単位でリメイクしてみよう」と考えた。原曲の75%の素材を捨て、25%の素材をもとに新たに書き下ろしたから「25%のヴィヴァルディ」、気がきいた邦題だと思う。

花に満たされた春は、悲しみや憂鬱もともなう。リヒターらしい寂寥感ある和音はそんな「春の二面性」を見事に表現している。原曲の鳥のさえずりのなかで味わう壮絶な自由と孤独に、わたしは不思議な癒しを感じてならない。

花と音楽は美しい、人生の必需品。もしこの世にそれらがなかったら、途端に干からびた、荒みきった世界になってしまう。衣食住とまったく同等で欠かせない「花と音楽」について綴ったコラム全文は、こちらからどうぞ。

ときめく365日のためのクラシックレシピ:花×クラシック【連載第1回】

クラシック・プレイリスト、次回の担当は8月3日(火)から6日(木)。テーマは「夜空とクラシック」です。

毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。

出演|Memories & Discoveries

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