25ans CULTURE CLUB 21/05「密やかなパッション」

25ans 5月号(3/27)のテーマは「密やかなパッション」。

Netflixドラマ『ブリジャートン家』にも登場するシャーロット王妃の逸話を中心に、情熱を感じた映画や展覧会を紹介する。

きっかけは、よしながふみの長編漫画『大奥』の完結や、ピアソラ生誕100周年の盛り上がりだった。歴史やその文脈にあるクラシックを経て、新しいジャンルを打ち立てていく表現者たち。王道を極めること、そこからの自由を求めること、どちらも情熱ありきだと話した。

すると編集さんも「石岡瑛子展」で浴びたパッションを披露してくれて、女性アーティストつながりで(当時)ベネチア金獅子賞につづきゴールデングローブ賞総なめの快進撃を続けていた『ノマドランド』クロエ・ジャオ監督に接続。「キューガーデン展」でフィーチャーされていたシャーロット王妃に話が広がったというわけだ。

世の中には千差万別な愛があふれ、その情熱が世界を動かす。その一部を紹介しよう。


line up

【本】大奥/フランス菓子大全/モーツァルト3大オペラ【音楽】ウィーザー/ルシエンヌ【美術】キューガーデン 英国王室が愛した花々/コンスタブル展/渡辺省亭【映画】ノマドランド/ドリームランド/アンモナイトの目覚め【舞台】ピアソラ・ザ・ベスト/夜鳴きうぐいす/イオランタ

『ノマドランド』

「生きること」を肯定する
自由と誇りへの賛歌

長年住み慣れた家を失っったファーン(フランシス・マクドーマンド)は、キャンピングカーに全てを詰め込み“現代のノマド(遊牧民)”として過酷な季節労働の現場を渡り歩くことに。アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を描いたロードムービー。クロエ・ジャオ監督が切り取った大自然と、ルドヴィコ・エイナウディの音楽がもたらす壮絶なエモーション。「生きること」を力強く肯定する、自由と誇りへの讃歌。

https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html

『アンモナイトの目覚め』

歴史に隠された古生物学者の
心の痛み、そして恍惚

1840年代、英国。かつて発掘した化石が一世を風靡した古生物学者メアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)は、海沿いの町でひっそりと暮らしている。そんな彼女のもとへやってきた、自分と正反対の人妻が現れるシャーロット(シアーシャ・ローナン)。反発しながら惹かれあう女たちはやがて──。ケイトとシアーシャ、二人の演技派女優が掬いとる、ひりつく感情の襞が圧巻。ダスティン・オハロランのピアノが、静寂のあわいを彷徨う。

https://gaga.ne.jp/ammonite/


Focus

『ブリジャートン家』

キューガーデンを作ったシャーロット王妃の、密やかな情熱

1813年のロンドン社交界のラブロマンスを描いたNetflixのドラマ『ブリジャートン家』。

ジュリア・クインのベストセラー小説「ブリジャートン (Bridgerton) 」シリーズを原作に、名門貴族ブリジャートン子爵家の8人兄弟が、それぞれの愛と幸せを追い求める大ヒット作だ。シリーズ第1作『公爵と私 (The Duke & I)』をベースに、長女ダフネ(冒頭)の社交界デビューで幕を開けた物語は、上流社会の結婚市場のかけひきや真実の愛といったオースティン風の物語を装いつつ、女性の自立や人種問題といったアクチュアルな視点も盛り込み、現代に生きる私たちを惹きつける。

なかでも、ダフネの恋のお相手となる「公爵」ことサイモン・バセットを筆頭に、アフリカ系の俳優が多くのメインキャラを演じていることに新時代を感じた方は多いだろう。サイモンを幼少期から支え続けたダンベリー夫人、フェザリントン家のマリーナ、そして本日の主役、シャーロット王妃はとりわけ重要なキーパーソンだ。

じつは、この設定にはメーガン妃の結婚の際にも話題となった、有名な史実が関係している。

シャーロット王妃の正式な名は、ソフィア・シャーロット・オブ・メクレンバーグ=ストレリッツ(Sophia Charlotte of Mecklenburg-Strelitz, 1744-1818)。1761年に国王ジョージ3世の王妃となり、ジョージ4世とウイリアム4世という2人の国王の母。ヴィクトリア女王の曾祖母に当たる、実在の人物だ。

王妃はポーランド王家出身だが、先祖にはポルトガル国王アフォンソ3世がいる。この国王は、13世紀にポルトガル南部のイスラム教徒の土地ファロをムーア人から奪った際に、ファロ総督の娘と3人の子をもうけた。やがてその息子もまた、アフリカ系の妻を娶った。彼らはソウサ=チチョッロ家の初代となり、その子孫がシャーロット王妃というわけで、彼女がアフリカ系として描かれるのはそこまで突飛ではないのである。

ちなみにシャーロット王妃、好きなものにこだわるタイプだったようで、モーツァルトの後援者、陶磁器ウェッジウッドの愛好家としても知られている(実際ドラマにも音楽や食器が登場するので、気づくと楽しい!)。

そして最も有名な功績が、18世紀半ばの開園以来、世界の植物学研究をリードし続ける英国王立植物園「キューガーデン」への尽力である。この春、全国巡回していた「キューガーデン 英国王室の愛した花々」展でも、王妃の肖像画や彼女が愛したウェッジウッドの「クイーンズウェア」が、ボタニカルアートやゆかりの品とともに紹介された。

アフリカ系の貴族は存在したのか

これもメーガン妃婚約の際にBBCニュースなどで特集されていたが、英国では、18世紀にダイドー・エリザベス・ベル(Dido Elizabeth Belle、1761-1804 ) という貴族がいたことがよく知られている。

英国海軍の艦長として西インド諸島に派遣されたサー・ジョン・リンゼイが、交戦後拿捕したスペイン船に奴隷としてとらわれていたアフリカ人女性マリア・ベルと恋に落ちた。2人の間に生まれたベルを母国に連れ帰り、子どものいない叔父マンスフィールド伯爵に預けたことがアフリカ系貴族誕生のきっかけだったという。

ハムステッドにあった伯爵の邸宅で、ベルは伯爵が養育していた姪孫のエリザベス・マレーと同等の教育を受け、伯爵にアドバイスする秘書となった。そのことが、英国における黒人奴隷解放につながったとも言われている。

(1772年、逃亡した黒人奴隷にまつわる裁判で、高等法務院主席判事だったマンスフィールド伯爵が無罪判決を下したため。この判決によって、イングランド、ウエールズで14000人~15000の奴隷が解放された。)

なんでもないラブロマンスも、背景を知るとぐっと深みを増すから歴史は楽しい。

 

Netflixは2021年1月21日、シーズン2の更新を発表。配信は2022年初め頃と見られている。

原作小説は、ブリジャートン家の子どもたち一人ひとりに焦点を当てた8つの物語だから、シーズン2は、長男アンソニーと(イタリア系?)オペラ歌手シエナ・ロッソとのロマンスを描く第2作『私を愛した子爵 (The Viscount Who Loved Me)』がベースになるのだろうか。

社交界を振り回すゴシップ記者ホイッスルダウンの正体をめぐるミステリー要素もあり、今後の展開が待ち遠しい。

Netflixにて独占配信中

https://www.netflix.com/title/80232398

(25ans 5月号より加筆修正)

 

連載|25ans CULTURE CLUB

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