25ans CULTURE CLUB 21/03「わたしたちの聖地」

25ans 3月号(1/28)のテーマは「わたしたちの聖地」。

注目の「写真家ドアノー/音楽/パリ」展を中心に、おなじみのサンクチュアリにを描いた映画3作品を紹介する。変わっていく世界の中でも変わらない、いつも心の中にある大切な場所、それが聖地。丁寧に紅茶をいれて、空想旅行を楽しみたい。


line up

【映画】マーメイド・イン・パリ/天国にちがいない/ディエゴ・マラドーナ/どん底作家の人生に幸あれ!【舞台】ロボット・イン・ザ・ガーデン【美術】ドアノー/音楽/パリ/愛の日本画/国立工芸館(金沢)【音楽】角野隼人【本】英国菓子 知っておきたい100のこと/行った気になる世界遺産/とわの庭

『マーメイド・イン・パリ』

音楽と色彩と、命がけの恋
仕掛け絵本のようなパリに酔う

洪水のような色と音楽。浸水したセーヌ川で男が出会ったのは、傷ついた人魚。おとぎ話のような奇跡が似合う恋の都パリだからこそ生まれた、恋を捨てた男と美しい人魚のラブストーリー。クレームブリュレのカラメルみたいに甘くて苦い恋と、マチアス・マルジウによる仕掛け絵本のようなパリに酔う。

https://mermaidinparis.jp/

『天国にちがいない』

ナザレ、パリ、ニューヨーク
「故郷」の意味を探す旅

パレスチナからパリ、ニューヨークへ。パレスチナの映画監督スレイマンは、新作映画の企画を売り込むため、そして新たなる故郷を探すため旅をする。監督の目を通して 考える「故郷」の意味。パリの美しい街並みと戦車。ニューヨークの映画学校と、警官に追われる裸の天使━━淡々とシュールなユーモアに秘められたシニカル。 シンメトリーに切り取られた世界はしかし、天国にちがいない。

https://tengoku-chigainai.com/

『どん底作家の人生に幸あれ!』

デイヴィッド・コパフィールドの
波乱万丈を映画化

継父によって工場へ売り飛ばされるも、たくましく成長したデイヴィッド。裕福な伯母の助けで上流階級の名門校に通い始め人気者になるが━━。ディケンズの半自伝小説「デイヴィッド・コパフィールド」が映画化。ティルダ・スウィントン、ベン・ウィショーら演じる個性的な登場人物が、主人公の人生をかき回す波瀾万丈もの。デイヴィッドが終始ポジティブなので元気がもらえる。 

https://gaga.ne.jp/donzokosakka/


Focus

「写真家ドアノー/音楽/パリ」

パリを愛した写真家と、音楽家たちのワルツ

パリを舞台に多くの傑作を生みだし、世界で愛され続けるフランスの国民的写真家ロベール・ドアノー。その写真の多くに、「音楽」が隠れているのをご存知だろうか。

ドアノーの“音楽的”作品に注目し、2018-19年にフィルハーモニー・ド・パリ音楽博物館で大好評を博した展覧会が再構成され、日本にやってきた。Bunkamura ザ・ミュージアムで3月31日まで開催中の「写真家ドアノー/音楽/パリ」。そこでは、写真家が約60年にわたって撮影し続けた音楽の風景が、わたしたちの聖地パリの「音」を奏でている。

わたしも今回はじめて知ったのだが、ドアノーは幼少期にヴァイオリンを習ったことがあり、その経験から瞬間を切り取る写真の道に進んだのだそうだ。パリは、ウィーンに負けない「音楽の都」。その事実を、「街角」「歌手」「ビストロ、キャバレー」「ジャズとロマ音楽」「スタジオ」「オペラ」「モーリス・バケ」「1980-90年代」の8章で構成された本展はドキュメンタリーのように教えてくれる。

メイン・ヴィジュアルに選ばれたのは、美しい流しのアコーデオン弾きピエレット・ドリオン。黒人ジャズ奏者やロマのおばあさんの笑顔から、ジュリエット・グレコ、バルバラ、イブ・モンタンといったパリを象徴するシャンソン歌手たちのポートレイトまで。音楽シーンを超え切り取られた一瞬から“聴こえる”パリには、どこか哀愁が漂う。

サプライズは第5章。メシアンやディティユー、ブーレーズなど、戦後の現代音楽の巨匠たちの登場だ。

19世紀、ショパンやリストたちが集ったサロン文化の時代から、世紀末の近現代音楽へ。ドビュッシー、サティら先駆者たちが扉を開いた20世紀の音楽界に、ドアノーが同時代人として親しく出入りしていたのがわかる。数点のみのカラー写真のうち、一目惚れだったのがシャイな横顔のクセナキス。

20世紀を代表するアーティストたちも登場する。ピアニストのイヴ・ナットやジョルジ・シフラ、『トスカ』の録音に臨むマリア・カラスたちの自然な表情に、思わず口元が緩む。あえて仕事場での撮影を依頼したというドアノーは、音楽がともにある場所でこそ、音楽家がリラックスすることを知っていたのだろう。

特に作品を作ろうとは思っていなかった。
私が愛する小さな世界の思い出を単純に残したかっただけだ。

展覧会の幕切れで、そんなふうにドアノーは語る。

ドアノーの撮影遍歴を辿るうちに現れる人々は、ドアノーの人生を彩った「音楽」そのものであり、愛なのだと腑に落ちる。まだ訪れることの叶わぬパリが、懐かしくてたまらなくなる。

余韻と静寂もまた音楽。展覧会を堪能したら、ボーヴォワールに倣って、隣のLES DEUXS MAGOTSでパリを反芻したい。

Bunkamura ザ・ミュージアムにて、3月31日まで開催中。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_doisneau/

(25ans 3月号より加筆修正)

 

連載|25ans CULTURE CLUB

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