TOKYO FM『Memories & Discoveries』のMCが交代。2021年からは声優・早見沙織さんとともに、「クラシック・プレイリスト」をお届けする。
ということで、今回のテーマは早見さんにちなんで「オードリー・ヘプバーンと新年を」。
子どもの頃、わたしは祖母といっしょにオードリーの映画を観ては、吹替えを担当する池田昌子さんの声にうっとりし憧れていた。後年、早見沙織さんを存じ上げてすぐに、彼女が声の仕事に目覚めるきっかけがおなじ池田さんの吹替えだったと知り、限りない共感を覚えていたからだ。
クラシックと映画音楽、そしてオードリー・ヘプバーンには、じつは知られざるかかわりも多い。早見さんとの出会いの記念に、心の奥深いところにあるオードリーの思い出を「音楽」を通して語り合った。
1) オーリック:映画『ローマの休日』よりメインテーマ(1/12放送分)
『ローマの休日』は1953年、オードリー・ヘプバーンにオスカーをもたらしたハリウッドの名作だ。その劇伴を手がけたのは、フランスの作曲家ジョルジュ・オーリック。クラシック音楽史と、映画音楽の歴史をむすぶ、重要な人物のひとりである。
映画が生まれたのは150年ほど前。サイレント映画の時代は、オーケストラやピアノの生演奏がいわゆる「映画音楽」だったので、それを手がけたのは、当時現役で活躍していたいわゆる「クラシック」の作曲家だった。たとえば世界初の「映画音楽」は、「白鳥」で有名なサン=サーンスが、映画『ギーズ公の暗殺』のために作ったスコアだと言われている。
サン=サーンスの孫世代にあたるのが、このオーリック。1899年生まれ。パリ音楽院に在学中の1920年に、詩人ジャン・コクトーが名づけた前衛音楽集団「フランス六人組」に参加し注目を集めた。「六人組」にはオーリックのほか、プーランク、ミヨー、オネゲル、デュレ、そして紅一点のタイユフェールという若手作曲家がいた。日本ではマイナーだが、彼らの音楽やそのスピリットは、ほかのジャンルに目を転じると知らず耳にしていることが多い。
オーリックはなんといっても映画音楽だ。1930年代、ジャン・コクトーが映画の制作に取りかかると、オーリックも映画音楽を作曲し大成功。代表的な作品に『自由を我らに』(1931)、『美女と野獣』(1946)、『オルフェ』(1949)、『恐怖の報酬』(1955)、そして『悲しみよこんにちは』(1958)などがある。
なかでも有名なのがこの『ローマの休日』(1953年)。某国の王女が身分を隠してローマの街にくりだし、アメリカ人の新聞記者と一日だけの自由な休日を過ごすロマンティック映画。コメディ・タッチの軽い雰囲気と、せつなく余韻を残すラストのエモーションは、オーリックの音楽によって、じつは巧みにコントロールされている。
2) サン=サーンス:組曲「動物の謝肉祭」より「大きな鳥かご」
1886年、フランスの作曲家カミーユ・サン=サーンスが、プライベートなパーティーのために作曲した組曲「動物の謝肉祭」。全部で14曲からなり、不思議な響きの「水族館」や、クライマックスの優雅な「白鳥」が最も有名だ。最近では、アニメ『GREAT PRETENDER』のエアレースで「終曲」が使用され、詐欺の滑稽な顛末と過去を乗り越えるヒロインを見事に彩っていた。
じつはこの曲、他の作曲家の楽曲をパロディにして風刺的に用いたり、意地悪な音楽評論家への皮肉がこめられていたりと、当時としてはなかなかの内容だった。サン=サーンスは自分が死ぬまでは「この曲の出版・演奏禁止」と決めていたのだそうなので相当だ。作者の死後、1922年にオーケストラによって演奏されて以降はユーモアあふれる管弦楽曲として大人気に。子ども向けの演奏会などにも引っ張りだこで、時に自由な物語を添え、朗読付きで演奏されることもある。
その朗読を、オードリー・ヘップバーンが担当している。
1975年の『ロビンとマリアン』で映画出演からフェイドアウトした彼女は、その後ユニセフ親善大使の活動で知られていくが、時折朗読の舞台やドキュメンタリーで、その上品な佇まいを見せてくれた。そのひとつが、最晩年となる1992年に行われた2つのクラシック音楽作品の録音。その1つがこの『動物の謝肉祭』だ。オードリーは、チャールストン・ヘストンら往年の名優たちとともに「大きな鳥かご」のナレーターをつとめ、変わらぬ可憐さでときめかせてくれる。
朗読と音楽を融合することで、クラシックは新たな輝きをみせる。声そのものの魅力にも耳をすましたい。
3) マンシーニ:ムーン・リバー(2CELLOSによるチェロ編曲版)
ムーン・リバーは、1961年公開の映画『ティファニーで朝食を』の劇中で、オードリー・ヘプバーン自身が歌った曲。ジョニー・マーサーが作詞、そして映画音楽の巨匠ヘンリー・マンシーニが作曲。公開と同時にこの曲も大ヒットし、その年のアカデミー歌曲賞を受賞している。
私にとって『ティファニーで朝食を』は特別な映画であり、誕生日と、生き方に迷ったときに必ず見返す人生の指針でもある。
ムーン・リバー 1マイルより広い君を
いつの日かあたしは 立派に渡ってみせる
夢をくれたと思えば 心を打ち砕く君
君がどこへ行こうと あたしは一緒に行くよ
とホリーは歌う。それは普遍的な人生や覚悟の話だなと、大人になって気づいたからだ。強く気高い自由への意志と、そこに寄り添うやさしいメロディ。原作者カポーティは甘すぎると嫌ったそうだが、わたしにはこのバランスが心地いい。
今回は人気チェロデュオ、2CELLOSによる演奏をご紹介した。深い包容力のあるチェロの響きと音楽のマッチングを、ぜひこの機会に愉しんでほしい。
早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。
音楽とアニメを愛する心強い味方を得て、今後もわたしにしか作れないプレイリストをご紹介していきます。
次回は2月23日(火)から25日(木)の毎朝5時台、TOKYO FMはじめJFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。