先週末、三菱一号館美術館のプロデューサー恵良隆二さんにお会いする機会がありました。三菱一号館は丸の内にある赤煉瓦の建物で、三菱が1894年に建設した銀行を復元したもの。現在は美術館になっています。コレクションの中心は建物と同時代の19世紀末西洋美術。東京で一番好きなアートスポットです。
私はもともと、美術館やコンサートホールなどの「箱」そのものに惹かれる癖があります。単に「顔(建築)が好み」なだけではなく、好みの箱はかならず独特の企画センスをもっているので「顔だけじゃなくて中身もステキ!」とうっとりすることが多い。私が三菱一号館のファンなら、恵良さんはまさにその化身ですから、白髪も上品なダンディぶりに嬉しくなり、さっそく年明けの展覧会への期待を表明しました。
来年1月から開催される「ザ・ビューティフル――英国の唯美主義 1860‐1900」の噂をきいたのは、今年の春でした。美少年と連れ立った紳士がうれしそうに教えてくれたのです。「作家のオスカー・ワイルドって好きかい? 彼がつくったような展覧会をやるんだよ」――当然、心に響きました。
19世紀半ばのロンドン。産業革命後の物質至上主義のなかで、「芸術はただ美しくあるために存在すべきである」という信念のもとアートやデザインを生み出した芸術至上主義と、世紀末芸術を集めた展覧会です。まさに、同時代の英国人ジョサイア・コンドルが設計した三菱一号館にふさわしい。建物に足を踏み入れたそのときから、そこは世紀末ロンドンなのです。
恵良さんが、おもしろい逸話を教えてくれました。今回ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館からやってくる所蔵品のなかには、三菱の創業者・岩崎弥太郎が所有していた作品の「里帰り」もあるのだとか。岩崎は実業家として、コンテンポラリーアート(現代美術)の収集にも熱心でした。そして当時の現代=世紀末ロンドンというわけです。このお話、胸が高鳴りませんか?
私は幕末や明治もひっくるめて、19世紀末を愛しています。岩崎が語り手だった『龍馬伝』や『八重の桜』に登場する日本と西洋との往来に、世界史のダイナミズムを感じる口です。傾聴しながら、私ってほんとうに歴史オタクだなあ、と幸福なため息をついたのでした。
(2013年10月11日付「新潟日報」初出)