晴雨計 第12回 「続・19世紀末マニア」

前回、2014年1月から三菱一号館美術館で開催される「ザ・ビューティフル――英国の唯美主義 1860‐1900」展の作品のなかに、幕末や明治を生きた岩崎弥太郎(三菱創業者)の所有物の「里帰り」があることを知り、「世界はつながっている」と幸福なため息をついた私。

その後、美術館プロデューサーに「岩崎家の西洋美術品コレクション」のリストを送っていただいたり、新潟の読者さんからもインターネットを通して反響をいただいたり、嬉しいことつづきです。ありがとうございます。

岩崎家のコレクションには、ラファエル前派を代表する画家ジョン・エヴァレット・ミレイの絵画も数点あるのですが、このミレイの代表作《オフィーリア》が、唯美主義展と同時期、六本木の森アーツセンターギャラリーへやってきます。これがまた、19世紀末マニアたちのハートに火をつけている。同じ日に東京で、世紀末ロンドンのはしごができちゃうんですから。

 

1848年、ラファエロなどのイタリア・ルネサンスを模範とする保守的なアカデミズムに反旗を翻した若い芸術家たちが、「ラファエロ以前」の芸術に立ち返るべく立ち上がった――みんな大好きラファエル前派兄弟団です。ミレイにハント、ロセッティ。ラファエル前派の大規模展は英国においてすら20年以上ぶりで、世界中で大きな話題を集めていました。

男たちの連帯と確執。聖書や神話のロマンティックな画題。そして運命の女――いつの時代の乙女も心待ちにしてしまう、それがラファエル前派。ほれ込んだきっかけであるロセッティの《受胎告知》も来てくれるので。ドキドキしつつ、現在開催中のターナー展やウィリアム・モリス展で予習をしています。

 

19世紀の英国美術が乙女に刺さるのって、ひとつはアートとライフスタイルが意識的に接近して、現代の「インテリア」とか「デザイン家電」とかのファンシー感に近づいたことがあると思うのです。その代表格がウィリアム・モリス。19世紀のイギリスを代表する詩人、思想家にして工芸家。植物や動物など自然界のモティーフと幾何学的パターンを融合したデザインが有名です。「役に立たないもの、美しいと思わないものを、家においてはならない」という言葉が衝撃的でした。だからこそ「自分で美しくする」。唯美主義や19世紀という時代の、前向きさが好きです。

 (2013年10月18日付「新潟日報」初出)

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