Memories & Discoveries 20/10「シネマ・パラディーゾ」

9月から10月への一週間、ひさしぶりの映画音楽特集をお届けした。

きっかけは、ユニバーサルミュージックから発売された『ジョン・ウィリアムズ ライブ・イン・ウィーン』(上写真)。映画音楽の巨匠とウィーン・フィルが共演した話題作だが、話題作だけに前週担当の指揮者・坂入健司郎さんの「ウィーンからきた映画音楽」とカブり、こちらは「その後の映画音楽、あるいは映画音楽2020」というテーマでコンピレーションを編んでみた。

タイトルでお気づきの方もいると思うが、「シネマ・パラディーゾ」はご存知『ニュー・シネマ・パラダイス』のメインテーマ。今年7月に亡くなった巨匠エンニオ・モリコーネによる名作だ。「映画の歓び」ともいえるようなこのすてきなタイトルをお借りして、2人の巨匠とフランスの新風デスプラ、そしてわが愛しのアラン・メンケンの楽曲をご紹介する。

新潟出身の私にとって、映画館はクラシックの実演より身近なものだった。

はじめてひとりで映画館に行ったのは12歳のとき、大好きだったブラッド・ピット主演の『リバー・ランズ・スルー・イット』。当時から映画日記をつけていたし、観測歴としては映画のほうが長いのだ。

クラシックと映画音楽の境目は昔から曖昧だが、ここ数年は当事者間の”認識”も加速している。

映画が生まれてすでに150年。映画のもう一人の主役である音楽が、新しいクラシックになっていくのは必然なのだと思う。

1) ウィリアムズ:映画『ハリー・ポッターと賢者の石』より「ヘドウィグのテーマ」(9/29放送分)

『ジョン・ウィリアムズ ライブ・イン・ウィーン』からの1曲。

「ハリー・ポッター」シリーズに登場するフクロウ、ヘドウィグのテーマで、チェレスタの幻想的な響きがわたしたちを魔法の世界に誘う。もともとこの曲は、シリーズ第1作(2001年)完成のずっと以前、ウィリアムズが原作を読んだイメージから直接書き下ろしたチェレスタのワルツがベースになっているそうだ。ここではアンネ=ゾフィ・ムターのヴァイオリンが旋律をなぞり、19世紀ウィーンのロマン派のヴァイオリン協奏曲みたいな雰囲気を醸し出している。

この曲、『ジョン・ウィリアムズ ライブ・イン・ウィーン』デラックス版ブルーレイのみの収録で、音源はムターが昨年出した『アクロス・ザ・スターズ』というアルバムに収録されている。当時ユニバーサルのクラシック担当と話していたとき、クラシック界の映画音楽アルバムのムーブメントについて盛り上がったのだが、その流れはいまも続いているようだ。

2) モリコーネ:映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より「シネマ・パラディーゾ」(9/30放送分)

今年7月、映画ファンのみならずクラシックファンにも愛された映画音楽界の巨匠、エンニオ・モリコーネが91歳で亡くなった。

1928年ローマで生まれたモリコーネは、6歳の時にトランペットではじめて作曲をしたという。その後クラシック音楽を学び、学校卒業後は演劇やラジオのための音楽を書きはじめた。『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』など、1960年代のマカロニ・ウェスタンにはじまり『アンタッチャブル』『ミッション』といったハリウッド大作まで。なかでも心に残る代表作は、今回ご紹介する『ニュー・シネマ・パラダイス』だろう。

一方、歌い手のジェンキンスはイギリス、ウェールズ出身のスーパースター。オペラの主役を務めながら、TV番組にチャリティにとクロスオーバーに活躍する彼女の最新作は、世界中で愛された映画を彩る名曲集。「星に願いを」「ムーン・リヴァー」「雨に唄えば」など往年の名曲から、レディ・ガガ主演作『アリー』の1曲まで、美しさと強さを併せもつ彼女らしい1枚だ。『ウェスト・サイド・ストーリー』の「サムウェア」では憧れの俳優ルーク・エヴァンズと、この「シネマ・パラディーゾ」ではイタリアのテノール歌手でポップシンガー、アルベルト・ウルソとのデュエットも実現している。

ヴェルディやプッチーニからうけつがれるイタリアの抒情性を、存分に味わえる1曲だ。

3) デスプラ:映画『シェイプ・オブ・ウォーター』より「シェイプ・オブ・ウォーター」(10/1放送分)

1932年生まれのウィリアムズ、1928年生まれのモリコーネときて、3日目はぐっと現代に。1961年生まれのフランスの作曲家アレクサンドル・デスプラの登場だ。

パリ生まれのデスプラは音楽一家の生まれ。学生時代から映画音楽を志し、『ラストコーション』『真珠の耳飾りの少女』『グランド・ブダペスト・ホテル』などの劇伴で一躍人気になった。2013年には初の演奏会用作品『ペレアスとメリザンド』を発表、2019年には川端康成『無言』を原作にした室内オペラ『サイレンス』を発表し、今年1月には京都と横浜で日本初演されるなど、クラシック界からも熱視線を浴びている。そんな彼の楽曲のなかから、2018年のアカデミー賞受賞作となった「シェイプ・オブ・ウォーター」をご紹介した。

もともとフルート奏者だったデスプラは、通常フルートパートを自身で演奏する。そんな彼が作品を託したのが、同郷の世界的フルーティスト、エマニュエル・パユだった。献呈された曲を含むパユのデスプラ作品集『エアラインズ』(上写真)もすばらしいので、デスプラが気になった方はぜひ聴いてみてほしい。

4) メンケン:映画『ノートルダムの鐘』より「ゴッド・ヘルプ」(10/2放送分)

映画音楽特集のラストは、これまでも”ディズニー映画の巨匠”としてご紹介してきたアラン・メンケンの1曲。

映画『ノートルダムの鐘』は、1996年公開のディズニーの長編アニメーションだ。ヴィクトル・ユゴーの原作をもとに、15世紀のパリのノートルダム大聖堂を舞台にした人間ドラマが描かれる。同時期の『美女と野獣』や『アラジン』に比べると知名度は低いが、じつは音楽関係者を話すと必ず「アラン・メンケンの最高傑作だよね!」と名前が上がる作品だ。昨年、劇団四季時代に本作で主演された俳優・海宝直人さんとお話した際には、「メンケン自身、自分の最高と語っているんですよ」と教えていただいた。

「ゴッド・ヘルプ」を歌うのは、迫害されるジプシーの踊り子エスメラルダ。キリスト教の大聖堂に迷い込んだ異教徒(アウトキャスト)である彼女が「私は強く生きる。でもそうできない人もいる。だから神よ、弱きものを救ってください」と祈る、慈愛に満ちた1曲だ。この日オンエアしたミュージカル版の音源では、冒頭にラテン語のサルヴェ・レジーナ(あわれみの聖母)の朗誦がついていて、よりクラシックらしさが際立っている。

じつはこの夏、ディズニーレコーズから発売された『ディズニー・リラクシング・オルゴール』というアルバムのライナーノーツを担当した。その時、担当者とこの「ゴッドヘルプ」を絶対に入れようと盛り上がり、サブタイトルを「ディズニー・プリンセス・コレクション」から「ディズニー・ヒロイン・コレクション」に変更するという一幕もあった。すべての人の幸福を願うエスメラルダの祈りが、今まさに分断されている世界に必要なものだと思ったからだ。

音楽の力で、私たちのかそけき祈りが届くことを願っている。

 

TOKYO FM『Memories & Discoveries』は毎週火〜金 朝5時台、JFN系列33の全国のFM局で放送中。オンデマンドでも視聴可能です。

 

出演|Memories & Discoveries

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