女王陛下のお気に入り

私たちにもなじみ深い英国王室。その偉大な女王たちのなかで、唯一ほとんど知られていないのがこの映画の主役・アン女王ではないでしょうか。

18世紀初頭。イングランドは同盟軍とともに太陽王ルイ14世のフランスに連戦連勝を重ね、国内では戦争派・講和派の二大党派の政争で揺れていました。17人もの子どもに先立たれ、病弱な体を抱えながら37歳で即位したアン(オリヴィア・コールマン)の支えとなったのは、幼馴染の側近サラ・チャーチル(レイチェル・ワイズ)。名前のとおり、20世紀の首相チャーチルやダイアナ妃の祖先で、映画では男装の麗人のように凛々しい才女です。

ところが、サラの従妹であるアビゲイル(エマ・ストーン)が登場して、関係性に変化がもたらされます。羨望の眼差しで見つめていたサラから「女王のお気に入り」の座を奪ってくアビゲイルの小悪魔ぶりにクスクス笑っていると、事態は思わぬ方向に。ライバル同士の恋にも似た憎悪や、女王の壮絶な孤独に深く胸をえぐられていきます。

ため息が出るほど美しいモノトーンのドレスは、『恋におちたシェイクスピア』や『シンデレラ』のサンディ・パウエル。絵画のような宮廷風景、本物のバロック音楽の中で繰り広げられるモダンな群像劇がスタイリッシュ。

権力の階段を昇りつめた先にあるのは何なのか。本当の友情、愛とは――人間の普遍的な欲望のドラマを、ブラックユーモアたっぷりに描く絢爛歴史絵巻。アカデミー賞最有力の呼び声にも納得です。

©2018 Twentieth Century Fox

 

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ヘンデル:アン女王の誕生日のためのオード

映画を彩る音楽は、バッハやヘンデル、パーセルといった女王と同時代のバロック音楽。女王とその継承者たちに仕えたヘンデルの「アン女王の誕生日のためのオード」は2018年、ハリー王子のロイヤル・ウェディングでも入祭歌として使用されました。

(25ans 2019年3月号 初出)※加筆予定

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