19世紀半ば、ヴィクトリア朝の英国でダンテ・ゲイブリエル・ロセッティらが結成したラファエル前派兄弟団(P.R.B.)。それは保守的なアカデミズムに反旗を翻し「ラファエロ以前」の芸術に戻ろうと立ち上がった、若い前衛芸術家たちの同盟でした。男たちの絆と確執。聖書や神話のロマンティックな画題。そして運命の女――いつの時代も乙女心を捉えて離さない彼らの軌跡をたどる展覧会が、東京・丸の内の三菱一号館美術館で開幕します。
クラシカルな赤煉瓦でおなじみの三菱一号館美術館は、鹿鳴館や旧岩崎邸でおなじみのジョサイア・コンドルが1894年に設計した、英国クイーン・アン様式の銀行の復元建築。19世紀英国美術を堪能するにはうってつけのアートスポットに、ターナーやロセッティ、バーン=ジョーンズの絵画や、ウィリアム・モリスの装飾芸術――ステンドグラス、タペストリ、家具などが集結するのだから、絶対に見逃せません。
展覧会の主人公は、同盟の精神的指導者だった美術批評家ジョン・ラスキン。産業革命後の物質至上主義に揺れ動く時代に、あたたかく親しみに満ちた言葉で芸術の必要性を説いた彼を軸に、ラファエル前派とは何だったのかを読み解く貴重な試みでもあります。
芸術、そして人生への愛に満ちたラスキンの言葉に、いま私たちは何を感じるでしょうか。
詩人でもあったロセッティの描く美女は、ラファエル前派の象徴。彼の弟子バーン=ジョーンズは同盟に心酔して大学を中退、のちに物語性にあふれる絵画で広く称賛された。レイトンやワッツ、ヒューズなど、同時代の名作も多数。
■3月15日~6月9日 三菱一号館美術館
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》1863-68年頃、油彩/カンヴァス、83.8×71.2 cm、ラッセル=コーツ美術館 © Russell-Cotes Art Gallery & Museum, Bournemouth
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『残酷な神が支配する』ラファエル前派、とりわけバーン=ジョーンズの影響を感じる日本の漫画家が、大御所・萩尾望都。本作は1990年代の英国を舞台に性暴力や毒親を告発した社会派作品ながら、ディテールは極めてロマンティック! 絵画的構図のほか、ロセッティの詩なども登場します。
萩尾望都/著 小学館
(25ans 2019年4月号 初出)※加筆予定