天使ガブリエルが遣わされ|ボッティチェリとルネサンス展

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Bunkamuraザ・ミュージアム「ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美」展の内覧会へ(3/20)。

昨年10月、イタリア大使館での記者発表から半年あまり、心から楽しみにしていた展覧会は、期待をはるかに超える世界観と感動で満たしてくれた。独立した美術館より小さく親密な空間――ザ・ミュージアムだからこそできる、壮麗なルネサンスの祝宴である。

訪れた人はまず、展示室入口から息をのむ。大理石を模した壁と、赤と金の装飾。音声ガイドからは、アルカデルトによるルネサンス時代の楽器の音色が流れる。一歩立ち入ると、

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美しいフィオリーノ金貨に囲まれた、ボッティチェリ『ケルビムを伴う聖母子』が現れる。ものうげな聖母に、ブルーグレーの天使たち。緻密な装飾の額縁に至るまで目が離せない!

フィレンツェのストロツィ宮で好評を博したこの企画、原題は「マネー&ビューティ: 銀行家、ボッティチェリ、あるいは虚栄の焼却」。

ボッティチェリやその師匠フィリッポ・リッピら画家たちはもちろん、ロレンツォ・メディチやサヴォナローラといった歴史好きにはたまらない名詞が並ぶほか、金貨や経済活動にまつわる絵画や道具、富めるフィレンツェと結婚、銀行家と芸術家の関係性など、これまでアートの世界では表だって語られてこなかった「マネー」という切り口がとても新鮮だ。「トンド」と呼ばれる円形の絵画や、「インプレーザ(標章)」というブランドロゴのテラコッタも多数。とにかく、額縁までじっくりみてほしい。

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圧巻なのは、中盤に登場するボッティチェリ『受胎告知』(ウフィツィ美術館蔵)。1481年にサンタ・マリア・デッラ・スカラ施療院付属聖堂のために描かれたフレスコ画だ。

思わず立ちつくしてしまった。まずはその巨大さだ。信仰は大きさで計れるものではないが、その大きさ、壮麗さから伝わってくる畏怖を感じた。

神の言葉を伝える天使ガブリエルからマリアまで、写真では確認しづらい光の筋のようなものが見える。それはたしかに光でもあり、また天使の声(神の声)そのもの。劇的な瞬間を目撃したような震えを、多くの人に体感してほしい。

 

ちなみに、ここで流れる音楽(音声ガイド内)は、ジョスカン・デプレの「天使ガブリエルが遣わされ」。耳からも荘厳な聖堂の雰囲気を味わうことができる。

多くの展覧会で、私はレコード会社マーキュリーが楽曲提供している音声ガイドを愛用しているが、今回はとりわけ、そのBGMが世界観を盛り上げていた。前述のアルカデルトやデプレはもちろん、フラ・アンジェリコの婚礼の絵画に合わせたバッサーノの「ラ・ローズ(薔薇の調べ)」もすてきだった。

そして終盤、メディチ家の落日のはじまり、ジュリアーノ暗殺のくだりで流れるイザークの「誰がこの両目を、涙の泉に」の臨場感!! 実際に、弟ジュリアーノ追悼のためにロレンツォが発注した曲だという。

ハインリヒ・イザーク(1450頃-1517)という作曲家は今回はじめて知ったのだが、本展には彼とマルティーニの音楽を集めた『三声と四声のための歌曲集』も展示されている。

ロレンツォ・ディ・メディチ時代の最も美しい作例のひとつであるこの歌曲集は、芸術と日常生活を結びつけ、融合する秘めた力を音楽の中に見出すという芸術的感性を示している。(展覧会図録より)

 

ミュージアムショップも期待以上のトリップ感。

フィオリーノ金貨を精巧に模した「コインチョコ」から、「ROSSI」のマーブル紙や皮細工、数百円で購入できるアクセサリーヘッドまで。トスカーナの青空をイメージした「VESTRI」のクリームチョコもある。まるでフィレンツェの旅のダイジェストのよう。

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お話した担当者さんのおすすめは「wartelli」のパスタ。

日本ではほとんど流通していないメーカーで、食べたらやみつきになるそう。スパゲティのほか、マカロニとペンネも。すっかりイタリアンの舌になったら、隣のドゥマゴで特製メニュー「インボルティーニ」も試してみたい!

アートファンのみならず、音楽ファン、西洋史ファンは必見の――そして間違いなくフィレンツェに旅立ちたくなる、すばらしい展覧会。「ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美」展は6月28日まで。

 

www.bunkamura.co.j

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