新国立劇場『運命の力』初日を鑑賞(4/2)。チケットぴあにて、公演評を掲載していただいた。
物語の舞台はスペイン。混血児で英雄気質の主人公ドン・アルヴァーロと侯爵令嬢レオノーラは愛しあっているが、血統を重んじる侯爵によって駆け落ちを阻止される。ところが、観念して投げ捨てたはずのアルヴァーロの拳銃が事故で暴発し、侯爵は絶命してしまう。ここから、恋人たちの悲運と、レオノーラの兄ドン・カルロによる復讐の物語がはじまる。もはや主役は「運命」なのではないかと思えるほど、悲しい偶然の連続がアルヴァーロを追いつめていく。
もとの時代設定は18世紀半ばなのだが、今回のプロダクションで演出家エミリオ・サージが選んだのは20世紀前半のスペイン内戦時代。1936年に勃発した、国民軍と人民戦線とによる戦いの時代である。 国民軍のフランコ少将が軍事総司令官に就任後、国家元首となり独裁政権を確立。1939 年に勝利を収めるまで3年つづいた。
「運命」に操られるがゆえにどこかふわーっとしているこのオペラの登場人物、アルヴァーロとカルロを国民軍の兵士に再設定することで、「戦争の狂気」として生々しく迫ろうとしているのが印象的だった。これは完全に脚本の問題だが、主人公の男と、彼に父を殺され復讐に燃える女の兄が戦場で束の間の友情を結ぶ、というおいしい設定を持っているにもかかわらず、すべての人間ドラマから距離を置きすぎているのが従来のこの作品だからだ。
サージはそうした「おいしいキャラ」に焦点を当てようとしたのではないか。
とくに気になったのが、カルメンのように蠱惑的に兵士を鼓舞する占い女プレツィオジッラ(写真右)。居酒屋で歌ったり、軍のキャンプを慰問したりする華やかなキャラクターだが、歌うのは一貫して戦争賛歌。彼女が生き生きと描かれれば描かれるほど、狂気のぐあいがましておそろしい。彼女はどうして――おそらく生きるためなのだろうが、こうも戦争を賛美するのだろう。その背景が気になって仕方がなかった。これはぜひ、原作も読んでみたい。
もうひとつ言えば、歌唱力はもちろん、やはり演技ができる美しい歌手がひとりいるだけで、こんなにも舞台は華やぐのだと実感した。ケテワン・ケモクリーゼ、この名前は覚えておこう。覚えづらいけど。
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場