Memories & Discoveries 19/04「ディズニー、音楽が語ること」

4月、ライナーノーツを担当したディズニー・ピアノ・カヴァーのベスト盤『ディズニー・ピースフル・ピアノ BEST』がリリースされた。

昨年から、『ディズニー・オン・クラシック』をきっかけに、大好きなディズニー映画の音楽について執筆させていただく機会ができた。『ディズニー・オン・クラシック』は、ディズニーのアニメーションやテーマパークの名曲たちを、フルオーケストラと生の歌声で愉しむ大人のための音楽会で、2002年に東京でスタート。いまや全国ツアーはもちろんアジアにも広がる一大イベントだ。

2018年はミッキーマウスが『蒸気船ウィリー』でデビューして90年という記念の年で、このデビュー作品(サウンド・カトゥーン)を生演奏で見る体験もした。そのはじまりから音楽は、ディズニー映画に欠かせないものだったんだなあ、と感動させられた。

今回は、こうした経験を通して感じたディズニー音楽の魅力、それが教えてくれるメッセージをご紹介したい。

 

1) パート・オブ・ユア・ワールド(4/23放送分)

1989年の作品『リトル・マーメイド』の主題歌といえる曲。

アンデルセンの『人魚姫』の物語を基に、明るく好奇心旺盛なプリンセス・アリエルを描き、ディズニー映画の第二の黄金期の原点となった『リトル・マーメイド』は、私の原点でもあり、アラン・メンケンという作曲家との出会いでもあった。

宝物を隠した洞窟の中で、アリエルがまだ見ぬ世界への憧れを歌う。アラン・メンケンのミュージカル・ナンバーの特徴は、主人公が心の奥深くにある願いを囁くようなAメロが、しだいに熱を帯び、「もっと広い世界へ、自分がいるべき場所へ辿りついてみせる」という壮大な決意で締めくくられるところ。

昨年、スクリーンの映像と生演奏で体感して強烈な印象を受けたのは、この「パート…」Cメロのあとの大サビでアリエルが、

「わからないことたくさん なぜ火は燃えるの? 教えて!」

と叫んでいたこと。

この2年後、『美女と野獣』の主人公ベルが村の男からの強引なプロポーズから「死んでもいやだ!」と逃げ出し、「もっと素敵な世界が私を待ってる」と歌うシーンでは、私も子どもながらにものがわかる年になっていたので「女の生き方とは!」と奮い立ったのだが、アリエルのときは小さすぎて気づいていなかったのだと思う。

「自由に生き、広い世界を知りたい」という欲求はアリエルもポカホンタスも、そしてアラジンやヘラクレスといった少年たちも歌い続けている、ディズニーの普遍的なメッセージなのだと痛感した。

2) いつか夢で(4/24放送分)

1959年に公開されたディズニー・クラシカルの名作『眠れる森の美女』からの1曲。せっかくの「クラシック・プレイリスト」なので、『ディズニー・ピースフル・ピアノ BEST』のなかで最もクラシックにかかわりの深いこの曲をご紹介した。

バレエが好きな方にはおなじみだが、「眠れる森」といえばロシアの作曲チャイコフスキーだ。じつはディズニー映画の同作でも、このチャイコフスキーの音楽がふんだんに使われている。あまり指摘されることがないのだが、映画のクレジットにもしっかり「Besed on…」と記されている。

16歳になったオーロラ姫が、夢で出会った王子を思いながら「夢は幻だというけれど会えるような気がする」と歌っていたところに王子が登場する……というザ・プリンセス・ソング。姫、そんな理由でいいんですか……というツッコミを、美しすぎる音楽の力技で納得させてしまう。

3) いつか王子様が(4/25放送分)

1937年の映画『白雪姫』から、JAZZの名プレイヤービル・エヴァンスやマイルス・デイヴィスのカバーでも知られる名曲。またしても「いつか」ですが、きのうのはOnce upon a dreamできょうはSomeday, my prince will comeなので、こっちのほうが訳詞としては正しい。

注目したいのは、今回の音源が名ピアニスト、羽田健太郎さんによるカバー、という点。2007年、惜しまれつつこの世を去った「ハネケン」さんは、クラシック出身ながらポップスの世界でも幅広く活躍し、桜や紅葉の季節にはニュースステーションの生中継で演奏を披露していた。今回、日本でピアノ・カヴァー・ベストを編むにあたってのこだわりが、この羽田さんの名アレンジを収録するという点だったのだ。

1999年、『ディズニー・デライトフル・ピアノ・メロディ』『ディズニー・ピースフル・ピアノ・メロディ』として発売され大ヒットとなった2枚のアルバムは、彼の代表作の一つ。今では貴重な音源で入手不可能。私の元に送られてきたのも、保存のシールが貼ってある歴史遺産という感じの資料だった。名作が、そうして埋もれてしまうのはあまりにも惜しいので、実現してなにより。

制作者たちの熱意でよみがえった名盤の名演奏、いまそこで生まれたかのような瑞々しさを楽しんでほしい。

4) 星に願いを(4/26放送分)

1940年公開の映画『ピノキオ』でコオロギのジミニー・クリケットが歌う名曲。ディズニー映画のオープニングロゴのジングルとしてもおなじみだ。きのうに続いて、羽田健太郎による演奏の再録だ。そしてこの曲が歌う意味こそが、今週のテーマでもっとも伝えたかったことだった。

『ディズニー・オン・クラシック』でシンガロングしたときに感じたのだが、この曲の歌詞はとてもせつない。

ジミニー・クリケットは流れ者のコオロギで、寒い夜にもぐりこんだジュゼッペしいさんの家でピノキオと出会い、彼の保護者のような存在になる。そして、無邪気がゆえに悪にころびそうになるピノキオを見捨てず、人間の子供へと成長させる。酸いも甘いも知る彼は、こんなふうに歌うのだ。

「人は誰もひとり 哀しい夜を過ごしてる」

リア充とかいわれがちなディズニーだけど、けっしてそんなことはないと私は思う。

哀しい夜も、明るい昼も、輝く星と同じように、音楽は照らしてくれる。ディズニーと共鳴した羽田さんの音楽で、みなさまの心が安らかに満たされますように。

 

TOKYO FM『Memories & Discoveries』は毎週火〜金 朝5時10分頃、JFN系列32の全国のFM局で放送中。オンデマンドでも視聴できる。
https://park.gsj.mobi/program/show/27337

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