Memories & Discoveries 20/06「STING goes CLASSICAL」

6月は英国気分。恒例の英国特集、今回はUKロックのレジェンドが歌う英国歌曲をご紹介した。

スティングは、1951年イングランド生まれの68歳。1977年にロックバンド「ポリス」を結成し、ベーシスト兼ヴォーカルとして活躍。バンド解散後もシンガーソングライターとして第一線で活動を続け、昨年末の来日ツアーも記憶に新しい。

1983年に発表されたポリスの代表曲「Every Breath You Take(見つめていたい)」。

私がスティングに出会ったのは2000年頃、ドラマで使用されたこの曲がきっかけだった。MVをはじめて見たときは、赤子の頃こんなスターがと震撼。その後、キメ顔のI’ll be watching you.がオーウェル『1984』の監視と支配を暗示している(つまり甘ったるいラブソングではない)と知り、この人やばいな……と恋におちたのである。

だいたいフロントマンのスティングがウッドベースで歌うのも、アンディ・サマーズのギターリフがバルトーク調なのも、すべてが知的でセクシー。ポリスって奇跡ではないだろか。後年、名門DGからダウランドやパーセルのアルバムを出したのも当然の帰結だと思う。

 

1) ダウランド:流れよ、わが涙(6/30放送分)

2006年にドイツ・グラモフォンから発表された、スティング初のクラシック・アルバム『ソングス・フロム・ザ・ラビリンス』からの1曲。

ジョン・ダウランドは16世紀、エリザベス1世の時代のイングランドに生まれ、ヨーロッパ各地の王宮で活躍したリュート奏者。「流れよ、わが涙」のようにメランコリックな曲調でヒットし「嘆きの男」と呼ばれたが、じつは陽気な人だったというエピソードもいい。スティング曰く 「シンガーソングライターのはしり」、つまり大先輩というわけだ。

このアルバムでスティングは、リュート奏者エディン・カラマーゾフとタッグを組んでいる。リュートという楽器が現在のギターの祖先ということもあって、愛称は最高。1970年代からロックミュージシャンのカバーはあったという。

アルバム発表時、音楽記者になりたてだった私に大きな影響を与えてくれた1曲。Flow, my tearsという歌いだしの、声の力とは! という衝撃と、名曲はジャンルも時代も超えるという感動を分かちあいたい。

 

2) パーセル:歌劇『アーサー王』より「コールドソング」(7/1放送分)

スティングは、2009年にもドイツ・グラモフォンからアルバムを発表している。題して『ウィンターズ・ナイト』。

『ラビリンス』がダウランド歌曲集だとしたら、こちらは名曲集。英国伝承歌からシューベルト、そしてバッハの器楽曲に自作の詞をつけた歌やオリジナル曲まで多彩で、かつ統一感のあるすばらしいアルバムだ。クリスマスの時期にはかならず聴く。

なかでもおすすめがパーセルの「コールドソング」。ダウランドの100年後、17世紀のイングランドに生まれたパーセルは、シェイクスピアで大成したイギリスの演劇と、イタリアの新潮流だったオペラを誘導させた「セミ・オペラ」(歌芝居)という形式で一時代を築いた作曲家。コールドソングは、以前ご紹介した至高のアリア「こよなく美しい島」で知られる彼の代表作『キング・アーサー』からの1曲だ。

この曲、17世紀のオペラのアリアなのに、アルバムの中で最もスリリングでクールな曲だと思っている。下降する音型と、サビでの言葉の繰り返しというパーセルの十八番が詰め込まれ、終盤の「let me freeze again(私を凍らせてくれ)」という絶望のセリフが胸に突き刺さる。

 

3) コヴェントリー・キャロル(7/2放送分)

引き続き『ウィンターズ・ナイト』からの1曲。

日本盤のみのボーナス・トラックとして収録されたこの曲は、英国伝統のクリスマス・キャロルとして愛される子守唄だ。作者は不明だが、16世紀にはイギリスのコヴェントリーで劇中歌として歌われていたという。

題材は新約聖書。生まれたばかりのイエスを恐れたヘロデ王が、ベツレヘムの2歳以下の男児を皆殺しにした「幼児虐殺」だ。神のお告げを受けた両親のおかげでイエスは逃げ延びる。もしかしたらそのとき、マリア様が歌っていた曲なのかな、と思わせる愛に満ちた曲だ。Lully, lully, (ねんねねんね、おやすみよ)。この子を守りたい、という母の思いのように繰り返されるリリックと、スティングの声に重なっていく合唱、ラストの希望に満ちたハーモニーに注目してほしい。

 

4)ジョンソン:あなたは見たのか、輝く百合を(7/3放送分)

最終日は再び、2006年のアルバム『ラビリンス』からの1曲。

ダウランドをモチーフにしたこのアルバムで、もうひとり登場するのがロバート・ジョンソン。ダウランドと同年代で、やはりリュート奏者だ。そしてなにより、シェイクスピアの劇伴作家として知られている。彼の曲も基本的に英国リュート・ソングの王道だが、劇の中で演奏されることを考慮しているためか、ダウランドのリュート・ソングと比べると、より自由で即興性があるように感じらる。

スティングの歌唱は、どこか遠い青春を思うようにせつなく甘く、カラマーゾフのリュートとともに心に染み入る。シンプルな編成だからこそ、英語の美しさも引き立つのかもしれない。

島国だからこそ、大陸の王道だったイタリア・ベルカントとは別の方向性で発展した、イギリスのシンガーソングライターの伝統。今後も深めていきたい。

 

TOKYO FM『Memories & Discoveries』は毎週火〜金 朝5時10分頃、JFN系列32の全国のFM局で放送中。オンデマンドでも視聴できる。
https://park.gsj.mobi/program/show/27337

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