まもなく夏至。
ここ数年、夏になるととりわけ香りが恋しくなる。草花の香り、水の香り、夜風の香り、太陽の香り、雨の香り。
無意識に感じていた香りに、どんどん敏感になっていく。最近友人に「おちこんだとき、気分を上げるためにすることは?」と聞かれたときも、「いい匂いのするところにいく」と即答していた。
いい匂いのするところ――シャルル・ド・ゴール空港。花屋さん。百貨店のコスメフロアやネイルサロン。劇場のホワイエや、ときには美術館も。もちろん、自宅をいい匂いにすることはいちばんの基本。あらためて、私にとって「聞くこと(聴覚と嗅覚)」が幸福の象徴なのだと気づかされた。
そもそも古来、人間の五感のなかでもっとも発達していたのが嗅覚だという。嗅覚を呼び覚ますと、それだけで「五感」をていねいに使っている気分になる。
[夏の花]
「部屋に花を飾る」を実践している人は多いと思うが、夏の生花は短命だ。
夏だけはグリーン、というのも一案だが、私の大好きな花屋さんによると、「夏こそユリを」とのこと! たしかにもちはいいし、1本の茎にたくさんの蕾がついているので、次々に花咲くのが楽しく、そのぶん長く楽しめる。
なにより特徴的なのは香りだ。ユリといえば強く甘い芳香だが、品種によっては控えめなものも多く、グリーンノートが夏の空気に丁度いい。
『夏の夜の夢』の季節に合わせ、いま私が飾っているのは「ニンフ(妖精、精霊)」。オリエンタルユリ独特の香りに、ジャスミンに近い香りがプラスされているため、心地よくさわやかな香りが特長。気品のある姿にひとすじのピンクがコケティッシュ。テッポウユリのように、昼より夜中に強くなる香りも夏らしい。
[インセンス]
冬にキャンドルの炎が恋しくなるように、夏はからりとした香の香りがいい。
湿気を感じたらパピエ・ダルメニエ。そして夏の夜のおともには、lisnのインセンスが定番だ。
lisnは、京都・松栄堂のブランド。「日々の重なりの中に、リズムのようにさりげなく取り入れられる香り」をテーマに、様々なテーマから生まれる香りを紹介してくれる。数年前、京都の友人に教えてもらってファンになったが、昨年は別の友人から夏の特選をいただき、「さまざまな香りを日替わりで愉しむ」ことに目覚めた。
青山にも店舗があり、美しい店内で好きな香りを選ぶのもまた至福の時間。詩のようなネーミングもすてきだが、店員さんに成分を解説してもらうことで、自分の好きな香りの傾向もわかってくる。私はジャスミンやガーデニア、チュベルーズ、オレンジフラワーなど、ホワイトフローラルにほんとうに弱い。
[パフューム]
香水は、「いい匂い」を持ち運ぶための代表的な方法。
流行はもちろん、年齢や季節や節目で変える人、絶対に変えない人、苦手な人も含めさまざまだと思うが、やっぱり「これは私の香り」といえるものが見つかるとうれしいもの。纏うだけで、一日が幸福に過ごせる。
大好きなパフューマリーでは、芋づる式で好きな香りが見つかったりもする。おきにいりはラルチザン パフューム(香りの職人)。1976年、調香師ジャン・ラポルトがパリに創業したフレグランス・メゾン。この表参道本店もまた、前に進みたいときに飛びこむパワースポットのひとつだ。
長く愛用しているホワイトフローラルの名香「LA CHASSE AUX PAPILLONS (ちょうちょをつかまえて)」に、最近はちょっと大人な「NUIT DE TUBEREUSE」をプラス。自分の肌質に合わせてじっくり選んでもらった香りを、美しく包装してもらったときの多幸感といったら!
肩ごしに背中に向かってプラスすると、残り香にも丁度いい。