Memories & Discoveries 16/12「聖なる季節のラブソング」

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アドベント待降節)も第三主日も過ぎ、まもなくクリスマス。

教会では、聖アンデレの日に一番近い日曜日(今年は11/27)から、一週間に一本ずつ、蝋燭に火をともします。

一週目はやさしい心を持つことができるように。二週目は強い心を持つことができるように。三週目は忍耐の心を持つことができるように。そして四週目はお祈りする心ができるように――そんな祈りの季節に、一年を静かに振り返りたい。

 

そんなふうに考えるのは、音楽家たちも同じ。現在放送中のラジオ「Memories & Discoveries」では、「聖なる季節に――平和を祈るラブソング」をテーマにふたりの歌手の新譜をご紹介しています。

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1) J.S.バッハ:カンタータ 第170番「満ち足れる安らい、うれしき魂の喜びよ」(12/13放送分)
2) テレマン:カンタータ「静かな夜が」~レチタティーヴォ「静かな夜が、大地の広がりを蔽う」(12/14放送分)
~フィリップ・ジャルスキー『J.S.バッハ&テレマン:カンタータ集』より
今朝までの2日間お届けしていたのは、フランスのカウンターテナー、ジャルスキーのカンタータ。
バロック・オペラのヒーローはもちろん、伝説のカストラートやヴェルレーヌの詩をテーマに新機軸を打ち出してきた洒脱な彼が、王道ドイツ・バロックに挑むということでドキドキしていましたが――その甘やかで瑞々しい、前向きなバッハにひと声で魅了されてしまいました。

どんなに耽美な作品であっても、音楽全体から漂っているジャルスキー自身の明るさ、健やかさ。それは300年前の遠い国の宗教音楽をも、人間的な喜びとして伝えてくれる。この季節にぴったりの1枚を、聖書の物語をひもときながら解説下のも楽しかったです。


Philippe Jaroussky records Bach & Telemann Cantatas: ‘Ich habe genug’

J.S.バッハ&テレマン:カンタータ集

J.S.バッハ&テレマン:カンタータ集

  • アーティスト: ジャルスキー(フィリップ),テレマン,ミュレヤンス(ペトラ),フライブルク・バロックオーケストラ,ブリュッゲマン(アン=カトリン),ネヴァーマン(アンケ),ディーン(ブライアン)
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: CD
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3) パーセル:歌劇『ディドーとアエネアス』~私が大地に横たえられたとき (12/15放送分)

4) ヘンデル:歌劇『リナルド』~私を泣かせてください(12/16放送分)

~ジョイス・ディドナート『戦争と平和の中で』より

明日からの2日間でご紹介するのは、アメリカ出身の自称“ヤンキー・ディーヴァ”、ディドナートによるパーセルとヘンデル。

2度のグラミー賞に輝く圧倒的な歌唱力はもちろん、METライブビューイングなどで目にする舞台を包み込むようなオーラや、インスタグラムで垣間見る私生活のカッコよさ――ここ数年、どんどん大好きになっているスター歌手です。

そんなディドナートの新譜のタイトルは、『戦争と平和の中で』。暗闇に花々を捧げるようなジャケット写真(ヴィヴィアン・ウェストウッドのドレスに、M.A.Cによるパンキッシュなメイクがクール!)も印象的。

なによりも感動したのは、この一見「バロック・アリア集」にも見えるアルバムが、現代を生きるディーヴァの「平和への祈りのプロジェクト」であることでした。

2016年のこの世界に生きる一市民として(中略)混乱の想像しさに屈してしまうことは、精神を荒廃させかねないほど危険なことです。私はそうした誘惑と闘う意志を持ち、誇りを抱き、意識的な楽観主義者でありたいと思っています。

結局のところ、これらの音楽を通じて私がお伝えしたかったことは、天秤を「平和」へと傾ける勇敢な力は、私たち一人ひとりの中に間違いなく備わっているということなのです。

ですから、私はお尋ねしたいのです。この混沌とした状況の中で、「皆さまならどのようにして平和を見出すのでしょうか」と。

意識的な楽観主義者! なんてすばらしい考え方か!

そうしてディドナートは、あらゆる人に「どのように平和を見出しますか?」という質問を投げかけます。ほんとうにあらゆる――8歳の難民の少女からリッカルド・ムーティ、アルフレッド・ブレンデルなどの音楽家仲間、連邦最高裁の判事や物理学者もいれば、ニューヨークのシンシン刑務所の服役囚もいる。ブックレットには、人それぞれながら、どれも美しい「平和」が並んでいます。

これらの会話を味わったあとで訊いたパーセルとヘンデル――それは、こんなに音楽で泣いたことはないというくらい、心に染み入るものでした。


Joyce DiDonato, In War and Peace – Making of

  • 戦争と平和戦争と平和アーティスト: ディドナート(ジョイス),ヘンデル,エメリャニチェフ(マクシム),ドーロ(イル・ポモ),バロバ(ゼフィラ),ベコヴァ(アルフィア)
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2016/11/23
  • メディア: CD
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ちょうどこのアルバムが家に届いた日、ある作家が亡くなったことを知りました。自分でも驚くほど、深い深い衝撃を受けました。生きること、書くことについてたくさん考えました。

呆然としながらCDを再生して、ディドナート――ここでは「ジョイス」と呼びたいのですが、彼女の最初の一声が流れてきたとき、堰を切ったように嗚咽がこぼれました。ディドーが「私を覚えていて。でも私の運命は忘れてね」と歌うのを、こんなに泣きながら聴いたことはありませんでした。

しかし、ジョイスは言うのです。

――この混沌とした世の中で、私はどうやって平和を得るか?

I Love.(私は愛する)

ああ、私も世界を愛している、と思いました。

だから私は負けない。これからもまっすぐ、世界を愛しながら、生きていく。そんなふうに思わせてくれたアルバムです。

一人でもたくさんの人に、聴いていただければ幸いです。

 

「Memories & Discoveries」は毎週火〜金 朝4時〜5時30分、JFN系列32の全国のFM局(例:東京の場合はTOKYO FM、新潟の場合はFM新潟など)で放送中。高野出演の「クラシック・プレイリスト」は5:10頃からスタートします。

インターネットで、全世界でもお聴きいただけます。

今月こそどうか、たくさんの人に聴いていただければと、心から願っています。

park.gsj.mobi

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