あっというまに小正月。
年頭に綴った2017年のテーマを胸に、晴天の日々を過ごしております。
「ディテールが勝敗を分ける。そのディテールを日々、突き詰めているかどうか。きょうだけディテールを突き詰めてもダメなわけで、大事なのは日常なんです」
毎日ていねいに、謙虚に努力すること。そこから強さや、美しさは生まれるのです。
幸いなことに、私のまわりには、そんな美しい人たちがたくさんいます。私ももっともっと、努力をしよう。「日常」を鍛えよう――それが新年に、なにより感じたテーマでした。
今回は、私が「日常」をどのように鍛えたいのか、という行動基準。
2016年の出会いと2017への期待をもとに、自分を誇れる「日常」のための10の行動を、恒例のHIT LISTで宣言します。
●VOICE「声を愛でる」
あらためまして「声」が好きです。
少女時代は放送劇や朗読の課外活動が大好きで、吹替え声優になるのが夢でした。もうひとつ大好きだった「作文」が生業になりましたが、音楽の仕事をしてよかったと思ったのはラジオ番組が持てたことと、『くるみ割り人形』で石田彰さんにインタビューできたことでした。
2016年はアフレコ体験に始まり(写真)、母校出身の若手声優・上坂すみれさんやSHERLOCK役・三上哲さん、『KING of PRISM』や美術展の音声ガイド等の取材、キャスティングにも関わることができ、「声」がぐっと近づいた一年になりました。
いま注目しているのは、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』など出演作がつづく梅原裕一郎さん。「みんなおなじに聞こえる」と言われがちな若手声優界で、「ヒーローのライバル声」「過去の傷をのりこえた上でのチャラ男声」ともいうべき個性をめきめき身につけている成長株です。
揺るぎない個性を身につけた中堅――ひと声聴いただけでせつなく詩的な気持ちになる、大好きな細谷佳正さん、圧倒的センター感で勇気を与えてくれる宮野真守さん、自立した女性を体現する沢城みゆきさん、そしてわが声道の元祖・井上和彦さんなど、書きたい「声」がたくさんあります。
2017年は、これまで媒体がないからと後回しにしてしまった「声」について書くことを、もっと仕事にしてきたい。また、ラジオや朗読など自らの「声」を使った仕事にも、より自覚をもってトレーニングしたいと考えています。
●DIPTYQUE「香りを愛でる」
五感のなかで、私が聴覚の次に大切にしているのは嗅覚です。
「音楽/声」とおなじく聞くもの、それが香り。チェリスト小林奈那子さんに出会ったのも、彼女が開いた「音と香りの音楽会」でした。
調香師の仕事場である調香台が 「オルガン」 と呼ばれていること。音階と同じように「香階」があること。そして私の好きなチュベルーズの香りはファ(F)の調べで、庭園の秘密めいた物語があること。それらは私にとって、あらたな人生の愉しみとなりました。
音と香りの音楽会@Diptyque 青山本店|エレ女のクラシック|25ansオンライン
よい香りのする街、空間に足を踏み入れた瞬間――たとえばパリのシャルル・ド・ゴール空港に降り立った瞬間の、得も言われぬ幸福感を「日常」にいかに取り入れるか。
これについても日々、学ぶことがたくさんあります。部屋に花を飾るのと同じくらい自然に、香水やアロマオイルを使いこなし、毎日をとびきり快適にしたい!
●DIET「ていねいに食べる、装う」
「カフェ・ロシア」(写真)は吉祥寺にあるロシア料理店。ボルシチや焼いたピロシキ、薔薇ジャムのロシアンティーまで、本格派なのに家庭料理のヘルシーさをあわせ持つ、なんとも通いたくなるお味。どこか乙女な店内も魅力です。
真似したくなって、この冬は自炊のレパートリーが広がりました。シチューやポトフ、ボルシチやビーフストロガノフでゆっくり煮込んだ野菜をいただくと、それだけで満たされます。
http://caferussia.web.fc2.com/
キッシュやライ麦パン、サラダにオーガニックのワインといった軽食も、照明や食器、知性的なおしゃべりと密やかな音楽という副菜で、とびきり豪華な晩餐になる。恵比寿の「クープラン」、また「霧とリボン」でおもてなししていただくときにも、いつもおなじことを感じます。
自宅でも、普段着のお店でも、しっかり装って食べることを楽しむ。これもまたあらためて見直したい、健やかで美しい生活への第一歩です。
●GIFT「心を届ける」
もうひとつ、美しく暮らす友人たちからいつも刺激を受けるのが、カードや贈り物のしつらえ。
「霧とリボン」のアクセサリーが美しい箱と包装で届くのは有名ですが、それは栞ひとつ、紅茶ひと袋でもおなじ。カードはもちろん配布用のDMやプレゼントのコミックスまで、細く美しいブルーグレーや濃紺のリボンを纏って届くのですから、感動してしまいます。
「silent music」の久保田恵子さんが毎年編んでくださるクリスマスハートや、友人が京都から送ってくれた1er etageの薔薇、読者やリスナーのみなさんからのお手紙――すべてにあたたかな心と「あなたのために」という時間がこめられていて、たまらなく幸せな気持ちになるのです。
「なにが人を喜ばせるのか」を私はいつも、大切な友人たちに教えてもらっています。今度は私の番です。
●ART「音声ガイドの賞をつくる」
※写真は昨年10月撮影ですが、残暑が厳しかったためこの格好です。寒々しくて恐縮です。
いまもっともHOTなカルチャー。その一つが、美術展の「音声ガイド」だと思います。
現在のガイドは、昔の味もそっけもない教材のようなものとも、少し前までの「有名俳優を起用しただけ」のものともまったく違います。とくに「アコースティガイド・ジャパン」が手がけるガイドは、ミュージアム・ショップで販売してほしいくらいすばらしいものが多いのです。
その最高傑作とも言えるような作品が、昨年末の「ゴッホとゴーギャン展」(東京都美術館/現在は名古屋に巡回中)に登場しました。
詳細についてはのちほどレポートをご紹介しますが、 声優・小野大輔さんと杉田智和さんによる迫真の「演技」は、第一の行動「声を愛でる」とも大きく関わる「事件」でした。
ただ人気者を起用したからではありません。当代一流の演技の背景に、マーキュリーが担当する歴史に基づいたBGMがあったり、脚本と展覧会空間の連動があったりしたからこそ、すばらしかったのです。
すばらしい音声ガイドは、一種のスペクタクルになりえます。私は3回リピートしました。1回は友人が声優目当てでつきあってくれましたが、彼女は中盤と出口で泣きそうになって、ゴーギャンの『ひまわり』の葉書を大切に抱えて帰りました。
古典芸術を、あるいは歴史上の人物や芸術家を広い層に知ってもらい、心からファンになってもらうには何が必要なのか――「音声ガイド」が教えてくれるよい例です。
http://www.g-g2016.com/aichi/index.html
●MOVIE「実写映画で“再会”する」
2017年も、実写映画が豊作ですね。ご存じのとおりコミックやアニメの実写はピンキリ(とくに、監督の音楽性は重要)ですが、100%楽しみでしかないのがエマ・ワトソン主演の『美女と野獣』(写真/4月21日公開)。
http://www.disney.co.jp/movie/beautyandbeast.html
1991年、少女だった私の人生に「マダム●●考えられない!」「美しくも本を読む、自立した女であらねば!」という呪縛を打ち込んだ不朽の名作が、ディズニーの完璧な再現力によって帰ってくるのです。
わが友・小橋めぐみさんも出演の『3月のライオン』は、もちろん3月公開。小栗旬さん主演の『銀魂』(7月公開 )も心から楽しみにしております。心配するお声も多数いただきましたが、私は元気です(笑)。みなさんありがとう!
http://wwws.warnerbros.co.jp/gintama-film/
●BOOKS「評伝を貪る」
2016年は、評伝を数多く読みました。写真はいま読んでるトマス・ペンの『冬の王』(陶山昇平訳、彩流社)。チューダー朝の祖ヘンリー7世を描いたもので、「闇の君主」という通り名がたまりません。
衝撃的だったのは、沢木耕太郎が藤圭子の壮絶な人生を、完全な会話体だけで描き出した傑作『流星ひとつ』(新潮社)。インタビューにはこんな可能性もあるのかと驚愕し、号泣しました。
『堤清二 罪と業』(児玉博、文藝春秋)や『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男』(牧村義展、講談社)も、光と闇満載でおもしろかった。新潟県民としては、角栄人気の火つけ役となった『天才』(石原慎太郎、幻冬舎)も。いつもいい本を教えてくれる定例会メンバーたちに感謝します。
マリー・アントワネットも悉皆調査対象でしたが、変わり種ではガリマール新評伝シリーズの『ルイ16世』(ベルナール・ヴァンさん、祥伝社)や『ルソーとフランス・オペラ』(内藤義博、星雲社)、『評伝 スタール夫人と近代ヨーロッパ』(工藤庸子、東大出版会)などがおすすめ。
夏目漱石没後100年(今年は生誕150年)というわけで、大好きな『夢十夜』(新潮文庫)を読み返したのも印象深かったです。
2017年はマリア・テレジア生誕300年、トルストイ生誕200年、J.F.ケネディ生誕100年でもあります。ナタリー・ポートマンがジャッキーを演じる注目の伝記映画もありますし、今年もたくさんの評伝を、ときに美しい日本語とともに味わいたいと思います。
●LOCAL「地の刻を知る」
各地での取材や講演も楽しみですが、それが東京であっても、住んでいる渋谷であっても、土地の歴史が気になります。
最近は、ご近所の代々木八幡宮に夢中。平岩弓枝さんのご実家で、昨年引っ越した時に不動産屋さんが「あやかってね」と言ってくれたこともうれしかった。猫がいつも、未来へご案内とばかりに先導してくれます。
●PRINCESS「才能を開花させる」
わが2016年を象徴する作品の一つが、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』。
なかでも征服王の末裔デナーリス・ターガリエンの成長には、観るたびに勇気をもらいました。政略結婚の道具でしかなかった彼女が逆境を逆手に取り、まず男を操縦する強さを身につけ、愛を失ったのちは為政者として君臨することを選ぶ。そして七王国統一の希望となっていく――
それでもデナーリスは奢らず、取り乱さず、信頼できる助言を聞きながらもときに大胆に行動し、目の前にある現実問題を解決していくのです。最も美しく、最も男らしいプリンセス。「麻衣ちゃんが絶対好きなプリンセスが出てくるから」と教えてくれた友人に感謝しています。
もうひとり、別の友人が勧めてくれた2016年のプリンセスが、バレーボール漫画『ハイキュー』の及川徹*1。ライバル校の最強セッターでありながら、「天才ではない」と早くから自覚し、センスと努力の積み重ねで姫川亜弓のごとく天才主人公の前に立ちはだかる及川さんが、いとしくてたまりませんでした。
デナーリスも及川さんも、運命に翻弄されず、よりよい自分を自ら選び取るところが最高にプリンセス。及川さんの「才能は開花させるもの」ということばを、何度唱えたことか!
この冬もすでに、ユーリ・プリセツキー(『ユーリ!!! on ICE』)という候補に出会っています。今年もたくさんのプリンセスに出会い、彼らのように雄々しく生きたいと思います。
●DREAM IS ALIVE「夢は生き続ける」
11月に入ってから、何度もこの言葉をつぶやいてきました。
最初はヒラリー・クリントンの演説を聞きながら。次にある人の死について考えながら。そして年末に放映された、SMAPのノンストップライヴに号泣しながら。
私はすぐに死ぬけれど 人間は星よりも長く続く
私ができなかったことを つないでいく人がいるでしょう
だから 夢は生きつづけるんだわ*2
昔読んだ漫画のフレーズをエンドレス・リピートするくらい悲しくて、しかし、壮絶な覚悟を感じた出来事でした。
なにかを信じる、好きになるということは、傷つくことにいっぱい出会うことです。
泣いてばかりでは乗り切れない。ほんとうに好きなら、思う気持ちを大事に育て、たとえそばにいなくても、誇りにできるような愛し方をしたい。
ヒラリーやSMAPがやってきた「女の子を応援すること」を、絶対につないでいこう。かつての自分のような少女に、たくさんの可能性を届けよう。そのためにまだまだ、前進していこう――そう思った矢先に、少女向けのお仕事が立て続けに入ってきたりするのだから、不思議なものです。
夢は確実に、生き続けるのです。