ベジャール、バレエ、リュミエール

人は流れ行く瞬間を止めようとする、愚かなことだ。
一瞬は、時間を豊かにし、もう一つの瞬間を生み出すためにのみ存在する。
私も一瞬でしかない。
他者の人生の中での一瞬…

モーリス・ベジャール『他者の人生の中での一瞬…』(前田充訳、劇書房)

ベジャールに関する記憶は、この自伝が最初だ。
『愛と哀しみのボレロ』より、シルヴィ・ギエムより早く出会ったのが、“モーリス・ベジャールの哲学”だったことは、私にとって象徴的だと思う。
ベジャールは驚くべき率直さと、フランス人特有の詩のような美しいことばと、リズムで、自らの半生を綴っていた。
あらゆるものの源である子供時代、美しい母の死、関わりあう人々への友情、成功と恐れ、愛、そして神。
ちょっと、一目ぼれに近いものがあったかもしれない。

多くのダンサーと同じように、私にとってもバレエ(=踊ること)の先生はベジャールだった。
著名なアーティストが没して、翌朝目が覚めて、
「ああ、もうこの世界にあの人はいないんだ」
と思ったのはとてもひさしぶり。驚いた。
思っていた以上に、大きな存在だったのだと思う。
創造された作品。
春の祭典、ボレロ、われわれのファウスト、アダージェット、愛が私に語るもの、くるみ割り人形、少年王…
そして『バレエ・フォー・ライフ』。
自分の人生に訪れた多くの“他者”を、とまどいながら、愛しつづけた人だったのだと思う。
…ベジャールはのちに、第二の自伝(同訳、劇書房)でこのように書いている。

この本のタイトルは、『誰の人生か?』である。
私はこの疑問符にこだわる。
それは推理小説のようなものだ。
つまり、謎めかせて、最後までその人物に対する疑問を持たせなければならない。
善玉なのか、悪玉なのか?
敗者なのか、勝者なのか?
悩める人か、滑稽な人か、感動的な人か、活動的な人か?
病んでいるのか、健康なのか?
ファウストなのか、メフィストなのか?
しらけているのか、熱狂的か?
モーツァルトか、フレディ・マーキュリーか?
フェルナンデルか、マリウス・プティパか?
私か、あなたか。

 

Maurice Bejart 1927-2007

Je vous exprime mes sinceres condoleances et l’assurance
de ma fidele amitie.

 

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