旅をめぐる3題──『フジコ・ヘミング 永遠の音色』『愚か者の身分』『旅と日々』

先週の小旅行以来、また旅について考えている。

今回は山形の大学での講義が目的で、旅はついでのつもりだった。ところが、はじめて訪れた街の空気──見たことのない空や稜線、知らない言葉のリズムなどに驚くほど心を揺さぶられ、旅とは距離でなく、いかに未知と遭遇するかなのだと実感したのである。

日常と日常の隙間の非日常、それが旅である。この秋は、旅と人生について思索をうながす映画の公開もつづく。掲載情報も兼ねて、少し覚書きをしておきたいと思う。

 

旅をめぐる3題──『フジコ・ヘミング 永遠の音色』『愚か者の身分』『旅と日々』
https://note.com/_maitakano/n/ncc11d0085087

というわけで、この秋公開が続く注目の日本映画を「旅」を切り口に考察した。

取り上げたのは、10/24より公開中の『フジコ・ヘミング 永遠の音色』『愚か者の身分』、そして11/7公開の『旅と日々』。先の2作品はそれぞれintoxicateでのレビューや公式の応援コメントを執筆している。

あらがえない人生を祝福するのがブルースだとしたら、彼女の音楽はまさにブルースだと思う。苦くせつなく、それでも愛に満ちたブルース。自分は人生で何を残すのだろう、そのために何をすべきなのだろうと考えはじめる大人たちに、彼女の音楽はそっと寄り添う。

 

フジコ・ヘミングが遺した永遠の音色をいま聴きたい。
亡きピアニストの人生の旅へと誘う、愛に満ちた映画を見て|intoxicate
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/42900

『旅と日々』については、25ans 12月号の連載でも取り上げた。

『旅と日々』は、つげ義春のふたつの「旅もの」を、気鋭の三宅唱監督が映画化した注目作。ともに独特の空気感を持つふたりのコラボレーションというだけでも目を引くのに、魚沼が舞台の『ほんやら洞のべんさん』の脚本家(原作では日本人男性)をシム・ウンギョンが演じるという。雪の情景を歩く彼女の佇まいがすでに物語そのもので、新潟生まれの私は一気に惹きこまれてしまった。

劇中では夏と冬のふたつの物語が展開するが、いずれも旅先でふたりの人間が出会うこと以外、一見何も起きないてはいない(監督によれば「贅沢極まりない二人芝居が続く」)。しかし、旅先でまったく知らない誰かに出会ったり、そこから何が起こるかわからなくなったりするサスペンス感が、ずっと根底に流れつづけている。五感が刺激され、笑えて、グッときて、なぜかすっきりする。まさに、旅の最中と同じ感情が味わえる映画だった。

(中略)モノローグを語るシムの韓国語も耳に心地いい。性別と国籍が変わったことで、李とべん造のコンビはいっそう滑稽で、いとしいものになったと思う。無計画な旅の終わり、美しい夢のあとで目を覚ました彼女の表情を見て、私まで小さな旅を終えたような、不思議な爽快感で満たされた。

すぐれた物語は、旅を模倣している。誰かの内面に近づきたいとき、旅は最善だからだ。もしかしたら、私たちの人生そのものが旅なのかもしれないと、3つの映画は語りかける。

旅を終えた私たちはきっと、少し前に進むことができるだろう。

 

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