夜想曲集


カズオ・イシグロ『夜想曲集~音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(早川書房)を読了。 
遅くなった。
もちろん新刊のときに買ったのだけれど積んであって、というのも、最初の一遍を読んだだけでぐずぐず泣けてしまって、とてもじゃないが電車のなかで読めなかったからである。
泣ける、という感想をプロが書いてはいけないが、実際泣けた。
涙は、だれかが死んだり、運命に引き裂かれたときだけのものではない。

副題にあるように「音楽」と「夕暮れ」をめぐる短編が5つ。
すべての物語に「ミュージシャン」と「愛の終わり」、加えて「それでもつづいてゆく現実」みたいなものが描かれている。沁みる。
Chanbonnel et Walkerの苦いチョコレートみたいに味わった。
  
 
あえてオトクラいちおしとするなら「降っても晴れても」。
滑稽でリアルでせつなくて、でもどこかロマンティックなノスタルジーがあって、ジュード・ロウあたりがもう少し歳をとったら主演すればいいとおもった。
短編としての完成度では「チェリスト」だろうか。
「モールバンヒルズ」もいい。傲慢な若者が、ある邂逅をとおしてなにかを感じるのだが、結局彼は変わらないのだろうと思わせる幕切れがいい。

ひとつひとつもよいが、あとがきにあるとおり本書は「五楽章からなる一曲」なのだとおもう。
主題や雰囲気には共通性があり、人物も重なり合う。
表題作ともいえる「夜想曲」が、いわばクライマックスだ。

奥さんはすてきな人だったんでしょうね。
でもね、人生って、誰か一人を愛することよりずっと大きいんだと思う。

忘れられないフレーズ。
こういうフレーズを生み出せることが、作家ということ。

 

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

 
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