大晦日。記憶に残る年となった、2022年を振り返る。
6月に小説家としてのデビュー作『F ショパンとリスト』(集英社文庫)を出版した。
朝日新聞・日経新聞の書評欄ほか、多くの読書家の方々に注目していただき「発売即重版」という特別な経験ができた。夏の夜、担当編集者さんからいただいた電話は一生忘れないだろう。何年も、手帳に刻み続けた目標だった。
物語には、そういう試行錯誤の年月も込めた。幼い頃から夢と情熱を育んでくれた出版社で、それを叶えられたことが嬉しい。
7月、すべての発端となった朗読劇「リーディングシング『F ショパンとリスト』」の再演も好評を博した。
キャスト変更のプレッシャーをはねのけ、役を憑依させ、せつないほどの熱演を繰り広げてくださった中島ヨシキさん(ショパン)、中澤まさともさん(リスト)の姿が目に焼き付いている。先日、ヨシキさんがご自身の連載コラムで、今年の転機としてこの朗読劇を語ってくださったことにもじんとした。
ただ俺の音楽が、誰かの心を震わせ、彼ら自身の新たな物語となって生き続けてくれるなら、それだけでいい。
作中でショパンはこう語るが、それは私自身の気持ちそのもであったからだ。
会場では小説の物販とサイン会をさせてていただき、たくさんの読者様にも直接お会いできた。泣きながら挨拶した方もいた。年末には「初演から一年」と追憶してくれる方、今年のベストに選んでくれる方までいて、幸せを嚙みしめた。
すでに次回作の登場人物のことばかり考える日々だが、何気ないお言葉をいただくたび、気持ちはあの頃に戻る。ショパンやリストへのいとおしさが甦り、応援していただけて幸せだな、と毎回思う。何度も感謝を伝えられることだって、とても有難いことだ。
『F ショパンとリスト』に関わってくださったすべての方に、心からの御礼を。本当にありがとうございます。
この作品のおかげで、もう一つの敬愛する出版社から、新作書下ろしのご依頼をいただいた。
12月には、新連載が2本スタートした。25ansの新たな音楽コラム「クラシック歳時記」(ハースト婦人画報社)、そして原作を担当したコミック『偽り姫のメソッド』(集英社マンガMee)である。早見沙織さんとのラジオも順調だ。
『平家物語』『犬王』原作の古川日出男さん、そして『ベルサイユのばら』池田理代子さんへのインタビューも忘れられない。お二人からは、過去から未来へと歴史をつなぐことの尊さ、そして信念を貫く覚悟を教えていただいた。
歴史を通して「人の心」を描く、創作者としての覚悟だ。
人の心は、記録には残らない。けれど確かに存在する。悲しみ、恨み、怒り、そして希望――そういう「人間」の内面を描き、後世に遺すのが「作家」だ。
私は学者ではないけれど、小説の射程だからこそ、届けられるものがある。
書かねばならない。なぜなら、歴史は絶えず水の流れのように継続する。
ドラマで松本清張がつぶやいたモノローグへの共鳴と、感謝でいっぱいの歳夜だ。
故郷・新潟への移住してからも、すでに一年。
早いものだけど。都内で年末恒例の会食をしたとき、信頼する友人が言った。
「選択は間違ってなかったよ。形に残る実績を残したからね」
選択というのは、移住のことでも、創作に専念したことでもあるだろう。何をしてもどこにいても高野は高野だから大丈夫。そういう理解の有難さを最近、深く噛みしめている。
ここの窓からは、冠雪した遠い山並みが見える。夕方汽笛の音がして、誘われるように港まで散歩し、海岸線を眺めた。
この場所からはじまるのだ。
書くぞ。2023年も、どうぞよろしくお願いします。
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