Memories & Discoveries 22/01「平家物語とクラシック」

声優・早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。

1月のテーマは「平家物語とクラシック」。12日から地上波でスタートしたTVアニメ「平家物語」にちなんで、大河ドラマに使用されたユニークなクラシックや、日本で生まれたクラシックなどをご紹介する特別編だ。

早見さんも平清盛の娘・徳子役で出演するアニメの原作は、「祇園精舎の鐘の声」でおなじみの古典。配信で一足先に見終えて、琵琶法師たちが音楽にこめた深い思い――レクイエムのような響きに、嗚咽するほど感動した。琵琶の音と声優たちの「歌」が深い余韻を残す傑作は、2021年で一番エモーションを揺さぶられた音楽アニメでもあった。

平家の人々がみな「戦争は嫌だ」「差別など無くしたい」と願う話であることにも心打たれた。彼らは源氏よりむしろ、現代人に近い。これってじつは、ちょうど10年前の大河ドラマ『平清盛』にも通奏するテーマではないか。

その理由を今回は、音楽の側面から探ってみよう。

1) エマーソン=吉松隆:タルカス(オーケストラ版)より 噴火(1/4放送分)

「タルカス」は、プログレッシヴ・ロックを語る上で不可欠なスーパーグループ、エマーソン、レイク&パーマー(ELP)が発表した、1971年の最高傑作。2012年の大河ドラマ『平清盛』は、この名曲が劇中に使用されたことでも話題となった。

ドラマの舞台は、武士が貴族の番犬でしかなかった平安末期。それまで天下の大悪人として描かれてきた平清盛を、先見的で躍動感あふれる日本の覇者として壮大なスケールで描いた。吉松隆による重厚なオーケストラ音楽も印象的だったが、「タルカス」はその起用のきっかけでもあったという。プログレファンの吉松がオーケストラ編曲版を発表したが2010年、大河ドラマのプロデューサーが耳にして「これぞ清盛だ」とひらめいたのだ。

900年前の日本の動乱を彩るように、「タルカス」はたびたび鳴り響いた。既存の価値観を壊し、新しい武家社会を確立したイノベーター平清盛と、ロックの新しいかたちを提示したプログレサウンド、一味違う大河ドラマの見事な一体感だった。

清盛はとにかく、楽しくないことがいやで、楽しめる世の中に変えようとした男だった。そんな男の溢れるような魅力を、音楽は一瞬で教えてくれる。

2) 吉松隆:大河ドラマ「平清盛」より 遊びをせんとや(1/5放送分)

引きつづき、2012年の大河ドラマ『平清盛』の美しい旋律をご紹介する。

メインテーマの最初と最後にも登場したので、覚えている方も多いだろう。番組では、ピアノを担当された館野泉さんのソロ・ピアノバージョンでお聴きいただいた。

タイトルの元となった「遊びをせんとや生まれけん」は、『梁塵秘抄』からの一節。ドラマでもアニメでも、独特の存在感を示した後白河法皇ゆかりのアンソロジーである。後白河は清盛と共闘し頂点に昇りつめ、のちに源氏に味方して乱世を生き抜いた大天狗――しかし、どこか憎めない帝王だ。憎めない理由は彼が今様、つまり当時の最新ポップスにハマるすっとんきょうなキャラクターであることも大きいだろう。

後白河は芸人に弟子入りまでして、今様を極めようとした。たとえば福岡の民謡、黒田節の元になった「越天楽今様」のように、その文化的功績は現代にもつながっている。

人は遊ぶため、おもしろきことのために生まれてきたのではないか

アニメでは、早見さん演じる徳子の舅であり、ともに激動を生き延びた絆とともに描かれる後白河天皇。凛とした徳子のイメージにも重なるピアノ曲を、終幕に思いを馳せて聴いてほしい。

3) 黛敏郎;バレエ音楽「BUGAKU」 第2部 Moderato(1/6放送分)

最終日は、1962年ニューヨーク・シティ・バレエの芸術監督ジョージ・バランシンのため作曲された、黛敏郎によるバレエ作品。「舞楽」というタイトル通り、雅楽の舞「蘭陵王」をもとにしている。

これまでアニメ『平家物語』のキャラクターの魅力を語ってきたが、作品に描かれる「平安の雅」そのものも紹介したくて選曲した。アニメには、たとえば早見さん演じる徳子と高倉天皇のせつないラブストーリーなど、「平家物語は戦争の話」と暗記しただけではわからない魅力がたくさんある。清盛の孫にあたる維盛が、見事な「蘭陵王」を披露するシーンもその一つだ。

2014年、ニューヨークを皮切りにマドリード、パリ、ロンドン、アジアへと随行した東京フィルのワールドツアーで演奏された思い出の曲でもある。ファゴットと打楽器のリズムにスタートし、オーボエからオーケストラ全体へと広がっていくその音色は、目をつぶると雅楽にしか聞こえない。この不穏などのエレガンスを、新年だからこそお届けしたい。

アニメ『平家物語』によって、あらためて世界を信じて生きることの尊さを思った。

早見さんの歌や山田監督が描く「青春」を愛する人はもちろん、王朝の美意識や「音楽」を愛するたくさんの人に、広く愛されるようにと願っている。

 

クラシック・プレイリスト、次回の担当は3月15日(火)から16日(木)。テーマは「物語から生まれた音楽」です。

毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。

出演|Memories & Discoveries

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