Memories & Discoveries 21/12「香りとクラシック」

声優・早見沙織さんとの楽しいおしゃべりでお届けする「クラシック・プレイリスト」。

12月のテーマは「香りとクラシック」。ユニバーサルミュージックの音楽サイト「uDiscover」の連載第3回から、香りにまつわる3曲をご紹介した。

草花や夜風の香り、そして雨の香り。季節の変化を意識していると、普段は気づかなかった香りにどんどん敏感になる。

わたしは音楽が好きだが、「目に見えないものを心の中でゆっくり味わう」という意味で、香りは音楽の双子のような存在。もはや生活に欠かせないものになった。お気に入りは京都の香老舗・松栄堂が手がけるlisnのインセンス。「日々の重なりの中に、リズムのようにさりげなく取り入れられる香り」をテーマに、自由な発想の香りを紹介してくれる。

中でも画期的だったのが、コードオブセンス(香りの音階)というアソートメント。19世紀の調香師ピエスが作った「香りの音階」から、C4(真ん中のド)からC5(高いド)までの8音を実際の香りで再現したもので、たとえばドレミの3本のお香を一緒に焚くことで「香りのハーモニー」も愉しむことができる。

その香りからは、一体どんな音楽が聞こえてくるのだろう?

1) モーツァルト:ピアノ・ソナタ第1()6番K.545 より第2楽章(12/14放送分)

調香師ピエスの香階(香りの音階)は、低いトーンから高いトーンまでの香りレベルを一覧にしたもの。

下図のように7オクターヴ、46種類の香料で表現されている。そしてこの香階に沿って、香料をずらりと並べた調香師の仕事場である調香台は「オルガン」と呼ばれているのだそうだ。

1日目は、すべての基調であるC4(真ん中のド)の音。香調は「フローラル/ウッディ」。落ち着きと正統的な雰囲気、フレッシュなばら、重厚な香木のイメージだ。

王道のローズには、自分自身の基本でもあるモーツァルトの、なつかしいハ長調のソナタを合わせてみる。作曲家自身が「初心者のための小さなソナタ」と記した教則本の1曲は、子どもの頃ピアノ教室で習った思い出の音楽でもある。

モーツァルトとばらの花、そしてサンダルウッド(白檀)の香りは、リセットして整えたいときの必須アイテムだ。

2) オッフェンバック:歌劇「ホフマン物語」より 美しい夜、おお、恋の夜よ(12/15放送分)

2日目は、D4(レ)の音。香調は「スパイス」。代表的な香りがヴァイオレットやバニラ。甘さと辛さの二面性が特徴だ。

「二面性」がキーワードのレの音、ニ長調の曲として選んだのは、ホフマンの舟歌(バルカローレ)。牧歌的イメージで語られがちな名曲だが、じつはヴェネツィアの高級娼婦ジュリエッタと女神が歌う、妖しい恋の二重唱。

死の影がよぎる歌詞のとおり、ホフマンを誘惑したジュリエッタは、幕切れで口封じのため殺されてしまう。甘くて苦いオペラの主人公の恋をイメージすると、バイオレットに隠された刺激が見えてくるかも。

3) サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ(12/16放送分)

3日目は、A4(ラ)の音、イ短調の曲。香調は「オリエンタル/ウッディ」。代表的な香りにはトンカビーンズやラベンダーがあるが、真ん中のラはとくに「刈り取られた干し草」の香りを示す。

草原のイメージが広がるこの香りに合わせたのは、サン=サーンスがスペイン出身の名ヴァイオリニスト、サラサーテのために書いた名曲。謎めいた序奏の後に、アレグロ・ノン・トロッポの疾走するようなロンドが続く。

「異国の高貴さ」を彷彿とさせるのもラの音の特徴だ。ミの音はアカシアの田園風景に合うバッハ、ファの音はチュベローズの秘密の花園のようなモーツァルト、ソのオレンジフラワーにはエルガーの夜の歌、というふうにプレイリストを組み立ててきたが、ラの音でガツンと香りが変わる。そこで曲調もガツン、というのを意識して選んだ。

 

新しい世界へ導く「導音」であるシの音の香りはサザンウッド。プレイリストでは、ロ長調を愛したショパンのノクターンを合わせている。

ちなみに、早見さんが本能的に選んだというお気に入りは、2日目のヴァイオレットだ。直感で選んだものはやはりその人の核だと思うので、さわやかな彼女のビターな側面をもっと知りたくなった。

あなたの好きな香り、そして音楽には、いったいどんな相棒がマッチするのだろ。コラム全文はこちらからどうぞ。

ときめく365日のためのクラシックレシピ:香り×クラシック【連載第3回】

クラシック・プレイリスト、次回の担当は2022年1月4日(火)から6日(木)。テーマは「平家物語とクラシック」です。

毎朝5時台、JFN系列38の全国FM局でOA。radikoでもお聴きいただけますので、どうぞお楽しみに。

出演|Memories & Discoveries

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連載|ときめく365日のためのクラシックレシピ

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