晴雨計 第9回 「ヒーローの主題歌」

『半沢直樹』、終わりましたね。毎週日曜の夜、あのドラマを観て「倍返しだ!」と闘志を燃やしていたお父さんも多かったのではないでしょうか。その闘志をさらに盛り上げていたのが、服部隆之によるメイン・テーマ。有名歌手が歌うわけでも、気のきいた歌詞があるわけでもないのに、観終わった後もずっと耳に残ります。

走り出した機関車のように、緊迫感を煽りながら刻まれていくリズム。メガバンクの世界を表象するような重厚なベースライン。その上で愛と意地をかけて疾走する男たちのように、せつなく踊るメロディ。チェンバロ風の音もどこか70年代的でクラシカルな、服部隆之の真骨頂。実際、ドラマの視聴率と並行して売れ行き好調のようです。「蘇州夜曲」「東京ブギウギ」の祖父・服部良一、「ザ・ベストテン」「北斗の拳」の父・服部克久につづく三代目の名にふさわしい快挙です。

 

もともと隆之さんは、こうした群像劇の音楽が得意であるように思います。

脚本家・三谷幸喜のドラマの音楽担当として、その世界観にぴったり似合う様式美で、いつだって家族やチームの物語を彩ってきました。TBSでは過去にも北大路欣也が銀行頭取(そして木村拓哉の父)を演じた『華麗なる一族』を手がけていますし、フジテレビでも木村さん主演の『HERO』や『のだめカンタービレ』など、チームの活躍が印象的なドラマのテーマ曲をヒットさせています。

忘れられないのは、2004年の大河ドラマ『新選組!』メイン・テーマ。遠い青春の日々を思い「愛しき友は何処に……」と呼びかける、三谷さんらしいまっすぐな歌詞が、こんなにも似合う作曲家はほかにいません。彼のサントラにのせて半沢(堺雅人)と伊勢島ホテルの元経理課長・戸越(小林隆)が理解しあうさまを見て、第33回「友の死」のおむすびのシーンを思い出し、「山南さん! 源さん!」と胸が熱くなっていたのは私だけではないはず。

そういう音楽の力を、私は信じています。

 

上司にあんな口をきくのが人としてダメなのはみんなわかっている。わかっていて、物語を楽しめる人たちが好きです。半沢はお父さんたちの特撮ヒーローのようなものだったのです。ヒーローに必要なのは、チームと主題歌。だからこそ、「服部隆之」でよかった。あの音楽を聴くたびにみんな、遠い日に託した夢を思い出すでしょうから。

 (2013年9月27日付「新潟日報」初出)

 

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