「ベートーヴェン頌」によせて

日経新聞 朝刊にて連載したコラム「ベートーヴェン頌」が最終回を迎えた。

生誕250年を迎えた大作曲家に、美術品を通じて迫る全10回。ラインナップは以下のとおり。

(1)ヨーゼフ・シュティーラー「ベートーヴェンの肖像」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67334560V11C20A2BC8000

(2) ベルナルド・ベロット「ベルヴェデーレ宮殿から見たウィーン」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67373320W0A211C2BC8000

(3) ニコラ=セバスティアン・アダン「鎖に繋がれたプロメテウス」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67417770X11C20A2BC8000

(4) ルイ・ダヴィッド「ナポレオンの戴冠式」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67459080Y0A211C2BC8000

(5) ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「田園の奏楽」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67527160R21C20A2BC8000

(6) エルンスト・リーチェル 「ゲーテ・シラー像」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67565540S0A221C2BC8000

(7) ニコラウス・ラウアー「アントニア・ブレンターノの肖像」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67599310T21C20A2BC8000

(8)ヨーゼフ・ダンハウザー「ピアノを弾くフランツ・リスト」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67645880U0A221C2BC8000

(9) アントワーヌ・ブールデル「ベートーヴェン像」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO67694190V21C20A2BC8000

(10) グスタフ・クリムト「ベートーヴェン・フリーズ」(部分)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFG3033Q0Q0A131C2000000

1998年の夏、はじめてこの作品の前に立った瞬間の感情を、いまもはっきりと覚えている。絵画は、音楽を奏でることができる。「歓喜の歌」とともに感じたその確信は、まるで人生の啓示だった。

(中略)

私が訪れた夏は、分離派100周年の節目。分離派館は真っ赤なペンキで塗りたくられ、入り口には標語が掲げられていた。「時代には時代の芸術を 芸術にはその自由を」。

ベートーヴェンの音楽は自由への賛歌だ。偏りのない世界で、愛されるつづけることを願う。

 

「美の十選」は10年ほど前、「こういうの、麻衣さんに書いてほしいんです」と友人が教えてくれた、日経文化面の名物コラム。友人が「毎朝コーヒー飲んだら、記事切り抜いてスクラップする」と言ってくれたように、わたしも諸先輩の「十選」を切り抜いていた。

実際に手がけてみると、作品のセレクトから新聞特有の文字数調整--レイアウト後に絵画の縦横比によって細かく調整する--に至るまで、すべてが新鮮で学びに満ちていた。言葉と推敲を愛する人間にとって、俳句に近い制作の歓びさえあった。

一年の終わりをこの連載で終えられ、たくさんの人たちに祝福してもらえたことは、2020年を象徴しているようで感謝でいっぱいになる。

世界が大きく変わり、同時に自分自身の揺るがぬ核を一つ一つ確認した一年だった。この先の世界がどうなっても、その核を信じていれば、最高の人生を送ることができるだろう。

まだまだ未知の世界が、たくさん待っている。

ベートーヴェンが貫いた「自由」を胸に、自分の道を信じて生きていきたい。

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