文化の日。
高橋アキさんのリサイタルが行われた鎌倉・覚園寺で、思いがけず中世にタイムトリップしてきた。
覚園寺は、鎌倉の多くの寺社と同様、住宅地の奥の谷戸(やと)にある。
日差しのなか山門をくぐると、その瞬間「聖域にいる」と肌で感じるほどの空気。
拝観に決まりがあることで、人が手をかけることによってありのままの自然の美を保つという、最高の贅沢が存在する空間。
一時間ごとに行われる拝観案内がまた、最高に楽しかった!
鎌倉幕府二代執権・北条義時が霊夢を見て、実朝暗殺事件の巻き添えを免れたことに感謝し、1218年に薬師堂を建てたのがはじまり。
九代執権・貞時が再び元寇のないことを願い、後醍醐天皇の勅願所となり、その後は足利尊氏の祈願所となったという、コバルト文庫少女にはたまらない歴史を、軽妙かつ上品な語り口で教えてくださる。
情趣深いお堂、美しい仏像。
川端康成が愛した鞘阿弥陀仏像や洞窟にある十三仏には、鎌倉という土地の奥深さを教えられた。
蝋燭を灯してお祈りする時間もくださるので、ほんとうに、自分が浄められていくようなすばらしい体験だった。
境内の千躰堂では、鎌倉生まれで70年代からスペインでも活動されている加藤力之輔さんの展覧会が。
日本画でありながら、ヨーロッパの光を思い出す色彩の空間は、ここが寺なのか、教会なのかすらわからなくなるほどで、「祈り」ということに洋の東西はないと確信した。
そして、アキさんのリサイタル。
ピアノの音が流れ出した瞬間、やわらかい日差しと、鳥のさえずりがあらかじめ予定されていたかのように重なり、奇跡のようにきれいだった。
もしかしたら、この光景のために書かれたのではないかと思えたモンポウ。
こんなにジャポニスムだったのか、と驚いたサティ。
そして、先ほど感じた生と死への祈りを深く反芻するようなシューベルト。
アンコールのアルベニスのタンゴや、加藤さんの奥様のスペイン風オムレツやいちじく、加藤さんとアキさんの同級生だという地元の方々の上品なおしゃべりまで、すべてが完璧だった。
音楽のあるべきひとつの形を、体験した思いだった。
- アーティスト: 高橋アキ(ピアノ),エリック・サティ
- 出版社/メーカー: ?カメラータ・トウキョウ
- 発売日: 2014/06/25
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