記憶の器|庭園美術館「幻想絶佳:アール・デコと古典主義」

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昨年秋にリニューアルオープンした庭園美術館では、この1月から「幻想絶佳アール・デコと古典主義」展が開催中だ。

19世紀末から20世紀初頭のアール・ヌーボーに続いて、2つの大戦の時代(1914-45頃)の装飾様式が、今回の主役アール・デコ。1933年に竣工した旧朝香宮邸は、まさにこの、フランスを発祥とするアール・デコの遺産である。

当時のサロンや博覧会で行われた生活空間を再現する「アンサンブル展示」が、当時の「美意識」そのものを伝えてくれる。

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話はアール・ヌーボーにさかのぼる。

アール・ヌーボーは江戸の工芸デザインやオリエント美術などの影響が色濃く、植物がモチーフの曲線を多用した「曲線と装飾」が特徴だった。

アール・デコは、まさに反動だ。過度な装飾性は消え、直線やジグザグ、流線形を組み合わせたすっきりデザイン。近代化や工業化の時代背景がを考えがちだった。しかし当時のフランスで求められていたのは、「よりフランスらしい様式」。

それは古代ギリシャやローマ、そして18世紀の新古典主義へのオマージュだった。

 

1925年にパリで開かれた現代・装飾美術・産業美術国際博覧会(アール・デコ博覧会)のリーダーはアンリ・ラパンだった。ラパンは1933年、旧朝香宮邸の内装デザインも担当。「アール・デコと古典主義」を表現している。

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展覧会では、旧朝香宮邸のガラス工芸も担当したルネ・ラリックや、天才デザイナー、ジャック・リュールマン、古典主義の画家ジャン・デュパらの絵画、彫刻、工芸、磁器、家具などを展示している。

展示室に、物語を彷彿させるタイトルがついているのもいい。

おきにいりは大食堂「ラパンの食卓」(上写真)や妃殿下の居室「デュパのティータイム」。どちらもCAREE BLANCの太田はるのさんのスタイリング。とりわけ妃殿下の居室は、薄暗い空間に浮かび上がるお茶会のテーブルセットが妖しい優雅さだった。

 

新館では、いまもパリの3宮殿――シャイヨー宮、パレ・ド・トーキョー、ポルト・ドレ宮を飾る絵画や彫刻が集まった。

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ヘッドフォンを装着して館内を回遊しながら、そこに存在した(する)かもしれない人物や空間のなかで自らが「観客/登場人物」になれるオーディオアトラクション『宴のあと』が、展覧会の白眉だった。

皇族の邸宅だったこの美術館だからこそできる、「記憶の器」の物語。

静謐な祝祭性と優雅さ。古典と近代の融合した世界を体感できる展覧会は、4月7日まで。

東京都庭園美術館|TOKYO METROPOLITAN TEIEN ART MUSEUM|開催中の展覧会

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