祖母・梅子と故郷の春の風物詩「町屋の人形さま巡り」へ。
城下町73軒の町屋が、古くは寛永から現代まで、各家で代々受け継がれてきたお雛様を生活空間のなかに展示。時代時代のお人形の顔や着物の違いに感動したり、迎えてくれる家のおばあちゃまとおしゃべりしたりできる催しだ。2000年にスタートし、「春を呼ぶ人形さま巡り」として毎年10万人以上もの観光客が全国から訪れているそう。
海沿いの実家から城下まではバスで20分。安良町で下車し、最初に飛び込んだのは「堆朱の池田屋」さん。「大浜人形」と呼ばれる、土人形のひな壇だ。中央の大黒天など3体は、案の定江戸時代のもの。
つづいて酒屋の「益甚」さんへ。
こちらは勇壮な「五月人形」の展示だ。
奥には春のお内裏が再現された「御殿飾り雛」と「源氏物語の」屏風が優雅に並んでいる。人形は嘉永5(1852)年の作と伝えられているそう。天井の高い町屋づくりのお住まいがまた、すばらしい。
つづいて「味匠喜っ川」さん。JR東日本のCMでおなじみの鮭の名店だ。
塩引き鮭と人形の、見事なコラボレ―ション。
つづいてもうひとつの鮭の名店「うおや」さんへ。
こちらの切り身といくらも実家ではおなじみ。梅子が私に食べさせたかったという美しい「姫御前」をテイクアウトし、そろそろ一服しましょうか、と「井筒屋」さんへ向かった。
井筒屋は元禄2年6月、「奥の細道」の途上だった松尾芭蕉と曽良が村上城下に二泊三日した折、宿泊したという旧旅籠。いまはカフェになっていて、私の大のお気にいり。オーストラリアへ嫁いだ娘さんからおばあちゃまへと受け継がれたマフィン「井筒屋ケーク」と「雪室珈琲」をいただいた。
女将さんがお膳に添えてくださった桃の花がうれしい。
井筒屋さんを出て、なつかしのパン屋「トラヤ」さんの角を曲がると、安善小路へ。閑静な黒塀の通りの一角には、1877年創業の割烹「新多久」さんが。
ここで出会ったのはなんと、徳川三代将軍家光の時代の「寛永雛」(1624-44頃)。いまのひな人形の原型ができた時代だが、お内裏様が赤ちゃんを抱いているという珍しいもの!
夫妻を見上げる御家人衆もいいお顔。彼らと赤ちゃんは、幕末の作品だという。
すごく上を見上げているな、と思ったら、これは小さい頃「お城山」と呼んでいた臥牛山の上の城の無事を感謝しているのだとか。
以前はこのカウンターの正面奥に無造作に飾っていたというお人形だが、某鑑定番組にて「寛永雛」であることが判明。あわててガラスケースにしまい込んだという。
仕込みの途中で楽しいお話をしてくださった若旦那さん、ありがとうございました。
新多久を出て、寺町で猫と戯れ、大通りに出たら小国町。村上茶の老舗「九重園」では「享保雛」を見せていただきました。
ひな壇の前には大名行列人形も。躍動感あふれる見事なお人形は、村上藩主・内藤家から明治初年に払い下げになったものと伝えられている。さすがお殿様。身分の違いによって表情が違うのも楽しい。
歌舞伎の演目を象る人形もずらり。写真は義経と弁慶。大迫力だった。
お向かいの座敷では茶席も。今年で16回目の人気イベントとあって、街の人たちのこなれたおもてなしと賑やかさに感激した。
桃の節句の帰省はなかなかできず、楽しみにしていた初体験。祖母とのよい思い出になった。
今回ご紹介できなかったお店や四季折々のイベントについても、またご紹介したい。