世界中で愛され、あらゆるジャンルに大きな影響を与え続けるファンタジーの金字塔『指輪物語』。魔法使いにホビット、ドラゴンが活躍する胸躍る世界は、一体どうやって生み出されたのか?――実話を基に、トールキンの知られざる半生を描いたこの映画を観て、その答えに秘められた作家のメッセージを見つけたような気がします。
なぜ人は、物語を綴るのか?
美しい英国を舞台に描かれる、作家の半生孤児だったトールキン(ニコラス・ホルト)は、母の友人の後見で名門キング・エドワード校に入学し、3人の少年たちとかけがえのない絆を結びます。ティールームに入り浸り、あらゆる芸術を議論する“不滅の4人”。下宿先で恋に落ちる、自由を求める女性エディス(リリー・コリンズ)。劣等感や失恋が多感な心を揺さぶるも、トールキンは絆と意志の力によって、困難を乗り越えていきます。しかし、その才能が大きく花開こうとした時、第一次世界大戦が勃発、青年たちの運命を大きく変えるのでした。
力強いメッセージと並んで絶賛したいのが、パブリック・スクールの建築や制服、ウィリアム・モリスの壁紙や紅茶など、あらゆる「英国らしさ」を絵画のように切り取った、多幸感あふれる映像美。リリー・コリンズの現代的かつエレガントな美貌からも、目が離せません。
現実はときに、信じられない悲劇を私たちに突きつけます。悲しみのために、起き上がれない日もあります。それでも「力が弱まった時こそ、志を高く持て」。トールキンの言葉は、前を向く勇気を確かに与えてくれました。誰もが誰かの「小さな英雄」になれる。『指輪物語』は、そんな勇気を証明する旅だったのです。
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DVD『ロード・オブ・ザ・リング』鑑賞後真っ先に感じたのが「トールキンが紡いだ言葉を味わいたい!」という衝動でした。しかし『指輪物語』は超大作。まずどんな物語か知りたい、という方には、大ヒットした実写化映画シリーズがおすすめです。ドラマ化のニュースも飛び込んできた今年こそ、世紀の名作に出会うチャンス!
■ワーナー・ホーム・ビデオ \972
(25ans 2019年10月号 初出)※加筆予定