ラ・フォル・ジュルネ新潟、および日本でのラ・フォル・ジュルネ2015の全日程が終了。
先月末、新潟プレ公演の司会でスタートした2週間。東京国際フォーラム、そしてりゅーとぴあという大好きな美しい場所に通う毎日は、ほんとうに楽園のようだった。
最終日は快晴。白山公園の新緑に、コンサートホールの美しい白い楕円が映える。今年もきてくれた祖母と。
ランチは新潟名物のお弁当。今年は「PASSIONS obento」に、フラワーソーダ水と雪下にんじんジュースを添えて。
すばらしい響きを体感して、ピクニックして、チューリップで絵を描いて、芝生を駆けまわって――「柳都」と「ユートピア」を結びつけたニックネーム「りゅーとぴあ」そのものの光景に、なんだか誇らしくなった。
What’s NIIGATAモニュメントの頭文字には、同郷のマンガ家・小林まことさんによるホワッツマイケル。マイケルの真似っこをしていた男子たちを激写させていただいた。マイケル少年には「やーだよー!」って言われたけど、すてきなご家族に乾杯。毎年、楽器体験やピクニックを楽しみにしているそう。
すてきな出会いは、もちろん会場でも。
新潟が最終公演地ということもあって、来日組もゆったりモード。リラックスモードで公園をすれ違う音楽家たちが笑顔で「すばらしいホールだね!」「気持ちいい!」と声をかけててくれるのが、楽園感が高まった。
写真は梁美沙さんと、彼女の所属するアルデオ四重奏団。 注目のチェリスト、オーレリアン・パスカルと共演したシューベルト「弦楽五重奏曲 D956」を、ルネ・マルタンといっしょに聴くこともできた。演奏後、能楽堂の楽屋にて。
こちらは燕喜館でのソロやコンチェルトで活躍した鈴木大介さんと、地酒「鶴の友」にハマった指揮者トレヴィーノさんの、終演後の2ショット。
能楽堂で「能とバロックの時空を超えたパシオン」を披露したチームもすばらしかった!
予想を超えるおもしろさだったのが、午後のひと時を彩った「オペラ・ド・パシオン」。
新潟のオペラ振興に力を注ぐ二期会のバス小鉄和弘さんが司会を務め、同カンパニーの新鋭たちが登場。パリにちなんだ名アリアを、同地で学んだ衣裳家・倉岡智一さんの新作で彩るというもの。個人的には倉岡さんご自身による衣裳解説にアドレナリンが活性化した。
男性の衣装は1850年代、ルイ・フィリップ時代の終わり(=『椿姫』やリストやショパンの時代)に定着したフロックコートとパンタロンで、現在の三つ揃えの原型であること。ロール・ボラントの歩くたび揺れる裾は画家アントワーヌ・ヴァトーが愛したため、「ヴァトープリーツ」とも呼ばれていることなどなど。ソプラノ富田さんがツェルリーナ(モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』に登場する村娘)を演じたとき、ピアノの高音に寄り添うように揺れるプリーツのコケティッシュな動きに感動した。
音楽で再現したモーツァルトもすごいけれど、寄り添うドレスもすごいやっぱり私にとっていちばんの「知る愉しみ」は、美しいものの歴史にあるのだな、とあらためて思った。
大満足で向かったのは、ルネ・マルタン出席の記者会見。帰国前最後の挨拶だ。
東アジア文化都市や日本人アーティストの活躍にからめ、「新潟の存在感が増すだろう」(東京の会見では鼓童の登場も予告)というコメントもうれしかったが、なにより感動したのは梶本眞秀さんによる「新潟流のあたたかいラ・フォル・ジュルネが育っている」という言葉。
新潟の「内に秘めたパシオン」。これはアーティストやジャーナリストの先輩たちからも指摘があったこと。都会の中心で非日常を楽しむ東京とも、リゾート感たっぷりのびわ湖ともまったく違う新潟のあり方。それは、暮らしと地続きの音楽の楽しみ方なのかもしれない。
姉妹都市ナントの音楽祭の精神に忠実に、市民が音楽を分かちあうことを第一に考えた新潟のラ・フォル・ジュルネは、どこか穏やかで上品だからこそすばらしい。パシオンというテーマをいちばん楽しめたのも、新潟だったかもしれなかった。
来年のテーマは「ナチュール(自然)」。四季や川、そして動物(猫だけで30曲!)を切り口に、より親しみやすい音楽の旅になるだろう。りゅーとぴあの屋上庭園で信濃川を見下ろし、つづいていくマルタンとの冒険に思いをはせた。
永遠のパシオン。それは故郷や音楽、そして生きるということへの愛そのものなのだ。