今月のOTTAVA Domenica Specialでは、ワンテーマで綴る2時間の音楽プログラムを、毎週2本ずつお送りしています。
第3週のテーマは「伝説」そして「愛と死」。中世からつづく音楽の物語、とりわけロマン派の根幹をなすパシオンの世界です。
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:魂の牧者
チャイコフスキー:歌劇「オルレアンの少女(ジャンヌ・ダルク)」~第2幕への間奏曲
プロコフィエフ:「シンデレラ」組曲第1番
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」~交響詩「ヴルタヴァ(モルダウ)」
パーセル:歌劇「ダイドーとイニアス」第3幕~ダイドーの嘆き
モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
コルンゴルト:歌劇「死の都」~ピエロの踊り歌
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」第一幕媚薬の場面~終幕
リヒャルト・シュトラウス:明日
シェーンベルク:浄められた夜 op.4~アダージョ
以上は、選曲のほんの一部。濃密でセクシー、でもどこかに明るい光がさしていたり、前向きな気分になれるようなセットリストを心がけました。
写真は、フランスの女優マリオン・コティヤールがジャンヌとして主演する、オネゲルの劇的オラトリオまたは神秘歌劇『火刑台上のジャンヌ・ダルク』(マーキュリー)。歌い手ではなく、俳優たちのことば、そして表情ひとつひとつが物語をつくる。鮮烈な体験でした。
清く正しく 活発で熱く
雄弁でひたむきで 不屈にしてまばゆい
まっすぐに立ちつづける――ジャンヌ!
合唱に応えるマリオンの凜と上向いた眼差しと声、瞳から感極まってこぼれた涙が忘れられないません。伝説はこうして、生き続けるのです。
再放送は9/26(土)。Domenicaの音楽世界とともに、今週もすてきな一週間をお過ごしください。
【麻衣のオススメ】
西村佑子『魔女の薬草箱』(山と溪谷社)
女性たちに人気の職業(?)のひとつ、修道女。伝説や物語に登場する彼女たちの清らかさ、歌声、神に祈りハーブを育てて暮らすといったイメージ――あるいは遠い中世の神秘は、つかれた現代女性たちのエスケーピズムを刺激するよう。そんな修道女たちの代表として、とくに音楽好きとしては欠かせない人物がヒルデガルト・フォン・ビンゲン。中世ヨーロッパの最高の賢女、カリスマ修道女にして作曲家です。今週のDomenica Specialは彼女が作曲した「魂の牧者」でスタート、中世を思わせる騎士や巡礼者たちの音楽、そしてより不思議な存在としての妖精を描いた音楽などをご紹介しました。
天からの啓示によって医学や植物学、音楽などについて執筆したヒルデガルト。「百合の最初の芽の香りと花の香りは人間の心を喜ばせ、正しく導く」「シダの葉が緑の時、目に当てて眠ると浄められる」といった優雅な健康法の母なのですが、じつはこうした薬草学を引き継いだのが、後世で「魔女」と呼ばれる人たちだったのです。
ドイツの魔女の専門家である西村佑子さんによる『魔女の薬草箱』は、そんな歴史背景や薬草のレシピ、図版もたっぷりの良書。アロマやハーブを楽しみながら、「ほんとうの魔女」の姿が浮かび上がります。魔女や魔法の文学が好きな方には、続編の『不思議な薬草箱 魔女・グリム・伝説・聖書』もおすすめ!