ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016「ラ・ナチュール 自然と音楽」が閉幕して、早くも2週間が過ぎ去ってしまった。
永遠を祈らずにはいられない美しい5月も、まもなく終わり。
夜風が最高に心地よいいまのうちに、新潟と東京、一週間におよぶ今年のフォルジュルネを総括しておきたい。
【Music】森と白鳥の音楽祭 | ラ・フォル・ジュルネ新潟2016 – Salonette
今年なにより幸福を感じた出会いが、マスタークラスの司会も担当させていただいた“鳥のさえずり”のおふたり、ジョニー・ラス&ジャン・ブコー。
「鳥」や「森」の音楽を演奏するステージに、黒いシックなスーツを着て登場するふたりの鳥人たち。
あまりに巧妙な鳥の鳴きまねに最初は驚きの声と笑いが起こるものの、音楽にあわせた優雅なダンスのようなパントマイムで、いつのまにかファンタジーの森に迷いこんでしまう—―「ナチュール」というテーマだからこそ出会えた、まったくはじめてのスペクタクルだった。
ふたりはフランス北部ピカルディ地方にある、ゾンム湾のほとりで育った幼馴染。
下校途中に海鳥の鳴きまねをしていたら、その声に鳥たちが応えるので、自分たちの才能に気づのだという。
「ぼくらは鳥と話すことができる! 魔法が使えるんだ!」
以来ふたりは鳥の声を研究し、模倣。現在では五大陸に生息する鳥の声を演じ分け、舞台やメディアで人気を博している。
鳥の声が音楽のはじまりなら、大地の振動というのもまた、音楽の根源だ。
アフリカからやってきたドラマーズ・オブ・ブルンジは、その強烈なリズムと色彩で会場を熱狂の渦に巻き込んだ。
英国のア・カペラグループVOCES8が披露した歌の数々は、中世の祈りと変わらない、人の声の神秘を教えてくれた。偶然映画のような一場面に遭遇したので、思わずシャッターを。
ある意味、今年のテーマ「ナチュール」は、300年どころか音楽史の冒頭から現代までを旅する試みだったのだと思う。
象徴的なのが、マックス・リヒターの意欲作「四季」(ヴィヴァルディの名曲のリコンポーズ)に挑む庄司紗矢香(ヴァイオリン)&ポーランド室内管だ。
たとえば有名な「冬」のラルゴが氷の世界のように変貌していく、あの張りつめた知性的な音楽を、満席の5000人の観客たちがものすごい集中力で聴いていた。私はなによりも、その一体感に感動した。
この「体験」こそが、フォルジュルネなのだ。
「四季」をご一緒した小橋めぐみさんと三菱一号館美術館のテラスで乾杯した後は、この日の最終公演「名曲とバードシンガーがいざなう森のファンタジー」へ。
外の新緑を持ち込んだような照明。そして夜9時からの大人のコンサートなのに、みんな童心に返って驚き、笑い、鳥と戯れていたことがうれしかった。
バックステージで「あと一日だね」と話しながら、幸福な日々のおわりの予感に胸がしめつけられた。
そして最終日。今年初開催だった会場、日比谷公園の野音では、熱中症対策が呼びかけられるほどの快晴となった。
この日は、ここ11年の恒例行事となっているソムリエカウンターへ。たくさんの方が顔を出してくれて、たまらない幸福をいただいた。
写真は、ルネ・マルタンとの共著『フランス的クラシック生活』の担当編集者(戦友)の今井さん。お嬢さんもあっというまにシャイな“女の子”になっていてびっくり!
会場ではすばらしい公式本と並んで、『フランス的クラシック生活』『マンガと音楽の甘い関係』も大きく展開していただいた。
『マンガと音楽』表紙画&インタビューのご縁から早3年、今年のLFJクラシック・アンバサダーを務めてくださった漫画家の雲田はるこ先生、そして新星堂のご担当者さまにも、あらためて御礼申し上げます。ありがとうございました!
この日の午後は雲田先生、そして『坂道のアポロン』『月影ベイベ』の小玉ユキ先生が会場に駆けつけてくださり、野音公演や、私のいちおしアンナ・マリア・スタシキェヴィチ(ヴァイオリン) &ポーランド室内管の「四季」をご一緒した。
萩尾望都のDNAを継ぐ、現代最高の“音楽的”マンガ家たちとコンサートをともに楽しみ、おしゃべりできる喜びといったら――!
アンナ・マリアの「四季」に、まもなく最終回を迎える『昭和元禄落語心中』のヒントを得たと語っていた雲田先生。
ラストシーンにどんな音楽が鳴り響くのか、楽しみでならない。
ジョニー・ラス&ジャン・ブコーはマスタークラスで、2006年からクラシックやJAZZとのコラボレーションをはじめた理由について、ごく自然なことだったと語った。
「はじめてピアノと共演したとき、その音色と、ぼくらのさえずりが共鳴することに驚いた。鳥たちは人間に聴かせるために鳴いているのではないけれど、その声はまぎれもなく音楽だった。――逆に言えば、音楽はたしかに自然を模倣しているということがわかった。自然とは、すべてを超越した存在なんだ」
いつも鳥とともにいる彼らの話には、強い説得力があった。
新潟で彼らの“さえずり”に出会って以来、東京に戻っても、音楽祭が終わっても、私は鳥たちがさえずる声に敏感になった。
朝、目が覚めた瞬間、鳥の声という“音楽”が聞えること。コンサートホールに鳴り響く音楽からも、たしかに鳥の声を聴きとれること。なんという幸福だろう。
こんなあたりまえの気づきこそが、「ナチュール」のなによりの収穫だった。
自然の分身である、自分。
音楽が私に教えてくれる自分自身を、私は音楽のために生かしたいと思う。
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