お茶会クラシック 第7回「シャーロック・ホームズと英国音楽」

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「ヴァイオリンを弾くのは、きみにとって騒音なんだろうか?」ホームズは気遣わしげに訊いた。

「弾く人によります。上手な人の演奏なら至福の調べでしょうが、下手な人だと……」

「ああ、それなら心配ないですね」ホームズは快活に笑った。「これで話は決まったも同然――あとは、君があの部屋を気にいるかどうかです」*

 

シャーロック・ホームズの生活には、いくつものルーティンがある。

事件のない平穏な朝には、ゆで卵とトーストとコーヒーの朝食。くつろぎたいときには、ウィスキーソーダと葉巻。愛用するパイプは3種類あって、思索にふけるときは古い陶器製を使用する。考え事なら、お気に入りの肘掛け椅子に腰を下ろして両手の指先を三角形に。事件に没頭するときは食事をとらず、数日間ふさぎこむ。夕方には愛用のヴァイオリンを膝に置き、目を閉じたままでたらめにかき鳴らす――。

自覚があるからだろう。初登場の『緋色の研究』でワトスン博士と出会い、ベイカー街221Bでの同居について相談をする際、ホームズはヴァイオリンの可否について尋ねている。ワトスンが心配していた「腕前」がどうだったかというと、 

 

難曲だろうがなんだろうが巧みに弾きこなせることは、この耳が知っている。私のリクエストに応じて、メンデルスゾーンの歌曲などお気に入りの曲を弾いてくれることがあるからだ。ところが本人が好き勝手に弾くと、曲どころか旋律らしいものさえめったに奏でようとしない。*

 

とのことである。

ヴァイオリンを愛するホームズは、当時の著名なヴァイオリニストのコンサートにマメに足を運び、蘊蓄を語ったりもする。たとえば『緋色の研究』ですでに、「午後はノーマン・ネルーダのヴァイオリンを聴きにハレ管弦楽団の演奏会に行きたいんだ」と事件そっちのけだし、「赤毛連盟」(『シャーロック・ホームズの冒険』所収)ではワトスンを「セント・ジェイムズ・ホールで、サラサーテが演奏するよ」と誘う。

(後略)

高野麻衣「名探偵はヴァイオリンがお好きーー19世紀ロンドン音楽事情」より

 

トークとピアノ演奏で、音楽家たちの素顔にせまるお茶会クラシック。

10月に開催される第7回の主役は、なんとシャーロック・ホームズ!

音楽好きの名探偵を案内役に、紅茶とミステリーの国イギリスの音楽の歴史をたどります。

 

日時:2018年10月27日(土) 13:30~15:00
出演:林そよか(編曲・ピアノ)× 高野麻衣(構成・お話)
料金:4,000円 ※「音食紀行」による19世紀風スコーンと紅茶付

池袋コミュニティ・カレッジ(西武池袋本店内) ☎︎03-5949-5983

 

「シャーロック・ホームズと音楽」は今年1月、お茶会クラシックのお菓子でもおなじみ音食紀行さんのホームズ生誕祭にて、初披露したテーマでもあります。

www.salonette.net

今回は、シャーロキアンの皆様にもご好評いただいたテーマを大幅にパワーアップ!

🎼 ホームズとたどる「英国音楽史」&「ロンドン音楽ガイド」

🎼 大好評「ミニ作曲講」で発見!「英国音楽」の特色とは?

🎼 ホームズはなぜ「音楽好き」になったのか?―ヴィクトリア朝の音楽観

以上3点を軸に、「ほんとうはスゴイ英国音楽!」論を展開していきます。

ホームズと同年代のエドワード・エルガーやヴォーン・ウィリアムズ、ホルストはもちろんのこと、ダウランド、パーセル、ヘンデルらバロック期の巨匠たち、ヘンリー8世やビートルズなんかも登場の可能性アリ!*1

 

「作曲家の出身地」を重視する音楽史の観点から見ると、英国は長らく不当に軽んじられてきた国だと思います。

たとえばホームズが活躍したヴィクトリア朝ロンドンには、ミュージック・ホールやギルバート&サリヴァンのオペレッタ(サヴォイ・オペラ)以外は「なにもなかった」とされてしまいがち。

でも、音楽の興行や活動の地としてのロンドンは、おそらく今も昔も最先端だったのだろうーーそんな事実を、ホームズの物語は生き生きとした描写で教えてくれるのです。

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また「クラシック男子」であることは、探偵ホームズのキャラクター設定上でも重要な役割を果たしています。

7月のバッハ回で『SHERLOCK』から引用してご紹介したとおり、ホームズと宿敵モリアーティとのバッハ論対決はふたりの知性が同等であることをわかりやすく教えてくれるし、「あの女」ことアイリーン・アドラーがオペラ歌手というのも、ホームズの愛すべきウィークポイントといえるでしょう。

ボヘミアの劇場の花形オペラ歌手であったなら、きっとドヴォルザークと親交があったに違いないーーそんな推理も成り立ちます。

以上のようなときめく関係性の数々も、朗読とあわせてお話したいと思います!

 

そよかちゃんは今回も、お茶クラでしか聴けないオリジナルアレンジの「変奏曲」のほか、われらがグラナダTV版ドラマの主題歌「Baker Steet 221B」をピアノ・アレンジ。大好評「作曲講座」も楽しみです。

紅茶が恋しい秋の午後、今回も熱い思い(萌え)をこめてお送りするお茶会クラシック。

お申込みはコミカレのWebかお電話(☎03-5949-5483)にて、お気軽にどうぞ。

音楽探偵のみなさまのご来場、心よりお待ちしております! 

cul.7cn.co.j

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「お茶会クラシック」とは 

お茶会のようにくつろいで生演奏を愉しみながら、音楽に隠された物語を語りあおう! 

という意味をこめた、ちょっぴりオタクで軽やかなサロン。

2017年4月のモーツァルトを皮切りに、ベートーヴェン、リスト&ショパン、チャイコフスキー、バッハといった人気者たちをテーマに展開してきた。第2シーズンのラストは、1/26のモーツァルト生誕前日祭を予定している。

講師役は、才能あふれる若き作曲家・林そよかさん(右)と私。

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[右] 林そよか:東京藝術大学作曲科卒業、同大学院修了。ヴァイオリニスト花井悠希、1966カルテットへの楽曲提供、高嶋ちさ子12人のヴァイオリニストの編曲など、作編曲家として活躍。自身の編曲と演奏による『桜ピアノ』など6枚のCDをリリース。姉の林はるか(チェロ)とのデュオ「アウラ・ヴェーリス」としても人気。ブログ「そよふわり」http://hayashi-soyoka.jp/ 

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[左] 高野麻衣:上智大学史学科卒業。歴史をベースに音楽、美術、マンガ、プリンセス論などを執筆・講演。ラジオ『Memories & Discoveries』(JFN系列)レギュラー。著書に『フランス的クラシック生活』(PHP新書)、『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)など。 

マンガと音楽の甘い関係

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*1:シャーロック・ホームズは1854年1月6日、英国北部のヨークシャー生まれ。作者コナン・ドイル(1859-1930)とエルガー(1857-1934)もほぼ同年代。

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