薔薇園とナイチンゲール

花瓶の薔薇がそなたに何の役に立とう
わが薔薇園から一葉を摘みとれ
薔薇の生命はわずかに五日か六日
わが薔薇園は永遠(とわ)に楽しい

――サアディ「薔薇とナイチンゲールとひよどり」

薔薇について書くのはむずかしい。
あまりにも多く書かれてしまっているからであり、特有の、熱狂的ファンや信者がいるからでもある。そして、一歩間違うと白粉の匂いがしそうなマダム趣味になってしまう。

日本にどれくらいの薔薇園があるかはわからないが、わが家にほど近い千葉県八千代市の「京成バラ園」はかなり大規模で有名な薔薇園である。
30000㎡の敷地に、薔薇はおよそ1000種7000株。
ディズニーランドを彩る薔薇も、ここで栽培されている。
雨にもかかわらず人びと(主にご婦人方の団体)で実に賑やかであった。
盛りの薔薇は色とりどりで、チューリップのように鮮やかなものも多い。
しかし、帰って写真を整理すると、わたしが納めているのはアイヴォリーからピンク――グレイッシュやモーヴ、ベージュがかった実にさまざまなピンクのグラデーションしかない。
そして、丘の上のイングリッシュ・ローズを基盤にした、オールドローズのみ。
これまた徹底している。
わたしは、このやさしいオールドローズと陳腐なモダンローズは、別の種類の花ではないかとすら思うのだ。

同じように雨の日、軽井沢近くの「メアリー・ローズガーデン」を訪れたことがある。
これはその名のとおり、完全に英国風の薔薇園である。
あの人気のなさ、そのまま『秘密の花園』のメアリが登場しそうな雰囲気を懐かしく反芻していると、突然、そのような静かな一角が現れた。
ガイドを見ると「アニバーサリー・ガーデン」とある。
今年創立50周年を記念して設けられたもので、元研究所長にして、世界の”Mr.Rose”であった故・鈴木省三の個人邸宅の庭がモデルになっているのだという。
広大な整形式庭園に比べればあまりにこじんまりとした庭。
しかし門に絡みつく蔓薔薇の野趣、色の交じり合う寄せ植えの花壇、素朴な東屋は、持って帰りたいほどの魅力であった。
わたしたち姉妹は、これをプチ・トリアノンと名づけた。

トリアノンを出ると、薔薇の寝床(The Bed of Rose)に出合った。
バーン・ジョーンズのいばら姫が、眠っているような寝床だった。
 
ナポレオンの皇后ジョセフィーヌは、マルメゾンに260種を蒐集した。
――薔薇でなくて、ひとはどんな花の品種をこれだけ集めるだろうか。
ボッティチェリやルドゥテの絵、ロンサールの詩、リルケもリヒャルト・シュトラウスも、ただちに薔薇の名前とともに思い出される。
そうであれば、やはり、いまさら薔薇について書くのはむずかしい。
それでもひとは薔薇について書く。語る。
女に生まれついた、宿命かもしれない。
 

京成バラ園
http://www.keiseirose.co.jp/garden/index.html
バラのソフトクリームは絶対に食べるべき。

Les Roses バラ図譜 【普及版】

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