香りで読み解くクラシック《ばらの騎士・編》

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『ばらの騎士』—―これまで、新国立劇場METライブビューイング(上写真)などでかかるたびに取り上げ、いずれも人気記事となっている乙女オペラの筆頭ですが、今回は特別企画を。

現在、新国立劇場にて再演中のこのオペラに、東京フィルの一員として参加し耽溺しているチェロ奏者・小林奈那子による「香りで読み解く『ばらの騎士』」。どうぞお楽しみください。

昨日から今朝にかけて、R.シュトラウスの歌劇《ばらの騎士》への妄想を繰り広げていたら、急行に乗っていたことに気づかず、池尻大橋を乗り過ごし三軒茶屋からひとつ戻る…というヘマをやらかした。ヘマやらかしてまで妄想しつくしたので、せっかくですから一方的にお話をします。

私はこの時、「香り」という芸術と、今まさに取り組んでいる《ばらの騎士》とを重ね合わせて読んでおりました。

この歌劇の主役、美青年オクタヴィアンは、年上女性への憧れが動機のあれやこれやな関係があり、やがてそれを卒業するきっかけとなる恋に落ちるわけですが、まさに恋に落ちた瞬間に存在するのが、ペルシャ産ローズの香油の香りです。

ゾフィーをして「生きた花のよう」と言わしめた銀のバラ。贈り物の入った箱を開け、ゾフィーとともに香りに顔を寄せた瞬間に、オクタヴィアンは彼女に恋をしてしまう。

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わたくしは!

「オペラから学ぶ女子力」的名シーンが此処だと!

声を大にして言いたい!

男性からの好ましい第1印象を導くためには「生きた花のような」美しい香りが必須であること、それも嫁入り前の若々しい娘であれば、やはりナチュラルなローズの香り一択であることが、このシーンからご理解いただけますでしょうかアアアア!(鼻息)

歴史上、マリー・アントワネット然り、デュバリー夫人やポンパドゥール夫人然り、ヘンリー2世の妻ロサムンディ然り、愛を得る女性の傍には常にバラの香りが存在してきた。

フレッシュなバラと初々しさはイコールであり、いついかなる時代でもモテを呼ぶ。この普遍的な方程式が、恋のアクシデントとして歌劇の中にも登場しているのです。

モテたいならバラです。ここテストに出ます。

劇中に香りのワードが出てきてしまったのだから、香りと音楽を共に愛する私としては、芳しい妄想を広げざるを得ません。

というわけで、勝手に選ぶ《ばらの騎士》シーン別の香り、いってみよう。

(写真は手持ちの香水コレクションから妄想の香りに近いものをチョイスしております)

第1幕: 元帥夫人の寝室はこれ一択
diptyque “Benjoin Bohéme”

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特に劇中では言及されませんが、元帥夫人はすでにバラの人ではない。ではなんなのか。彼女を象徴する香りも考えてみたいと思います。

ベタな設定であれば、1幕のあれやこれやのせいで催淫性の高いジャスミンやイランイランとなるのでしょうが、オーストリアの唯一気高い女性の名を持つ元帥夫人が、そのような小手先のお色気な香りを選ぶものか。

故に、劇中の時代考証とは違うけれど、オペラが上演された当時のマチュア女性的流行から判断するならば、ハプスブルク家ご愛用のゲランかクリードをチョイスしたいところ。

樹脂ベースにアイリスやスミレ、スパイスなどで作られた、ギュンとしてパウダリックな、濃厚かつ知性のある香りがふさわしいのでしょう。

王道から外すそのマインドこそが成熟していて、美青年が虜になるんだよ。かなり上級なモテテクだよ。

マルシャリン、ヴンダーシェーン。

第2幕: 初々しい2人の恋の始まりにはバラを
BULY HUILE Antique “rose des damas”/diptyque “Eau rose”f:id:otome_classic:20171203102939j:plain

銀のバラの香りづけに使われた「ペルシャ産のバラ香油」は、時代設定的にも考えられうる最高峰のバラの香りでしょう。ローズ香料の素になるダマスクローズは、その発祥の地が古代ペルシャ、現在のイランにあたります。

まだまだ高貴な人しか手に入れられなかった至高の香りが婚約の証という、このときめき設定…!

原作者ホーフマンスタールの才知を感じるポイントです。

第3幕: 怒りのオックス男爵
FLORIS “bouquet de la rene”
(ほんとはELITEかSIRENAつけててほしい)

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で、ここまでくるとオックス男爵の香りは何にしようかな、であります。

「まだ自分イケてる思ってる若い人にちょっと失礼で女にだらしないオッさん」略してマダオなオックス男爵には、うーん…思い切りカッコつけたアニマルノートか、イタリアちょい悪オヤジ的ベーシックなマリンノートかなあ。

「あ、これ?気づいた?マジでいい香りじゃない?今ロンドンで流行ってる最先端の香りなんだよねー、発売日に召使い並ばせて手に入れたわー」
みたいなのつけててほしい。

よって、豊富なメンズラインを持つ英国王室御用達香水商、ペンハリガンかフローリスの香水をチョイスしたいと思います。

Text/ Photo: 小林奈那子 (Nanako Kobayashi)

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Profile●チェロ奏者、音楽家。慶應義塾大学在学中より演奏活動を開始。東京藝術大学大学院音楽研究科修了。 東京藝術大学大学院在学中に、ハンガリー国立リスト音楽院に留学。ヨーロッパ各地での演奏活動を経て、2008年に帰国。
チェロ奏者としての演奏活動はクラシック音楽以外にも、メジャーアーティストのサポートや、様々なアート作品とのコラボレーションなど多岐に渡る。プレイヤーとしてだけではなく、楽曲制作やストリングスアレンジ、コンサート企画のプロデュース、ライナーノートやコラムの執筆、誌上対談など、その表現の方法は限りなくボーダーレス。ポーラ美術館企画展「ルノワール礼賛」でのコラボレーションイベント「ルノワールの調べ」、スパイラルカフェ(青山)「クラシック・ナイト」、diptyque青山店「音と香りの音楽会」など、欲張りでコンセプチュアルなコンサートの企画で好評を博している。NHK交響楽団第1コンサートマスター篠崎史紀氏の主宰する「東京ジュニアオーケストラソサエティ」の講師を務めるなど、 後進の指導にも当たっている。

わが盟友にして、香りアドバイザーでもある奈那子ちゃんの御見立て、いかがでしたか?

私は爆笑しつつも、大好きなオペラだけにすべての香りを揃えたくなりました。そして、ぜひこれをたくさんの方に読んでいただき、劇場に足を運んでほしいと思いました。

クラシックは楽しい。どんな扉からでも、クラシックは楽しめる。

おしゃれして出かけることも推奨しているけれど、「おしゃれも敷居が高いのよ」という方がいらっしゃるなら、「香りではじめてみる」自分だけのドレスアップというのもすてき。今後もこのシリーズ、ことあるごとに寄稿していただこうと計画中です。*1

オーケストラも大活躍するオペラ『ばらの騎士』は、東京・初台の新国立劇場にて12/9まで絶賛上演中。学生割引やキッズルームもあります。詳細は下記ホームページをご確認ください。

www.nntt.jac.go.jp

www.salonette.net

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*1:劇場では決まった場所に数時間着席するわけだから、香りすぎには注意。香水のつけ方についても、Diptyqueのようなパフューマリーで相談してみると発見があり、楽しいものです。

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