晴雨計 第22回 「「第九」とメジャー」

早いもので、2013年最後のコラムになりました。年頭に「王道(ベタ)を愛する自分を隠さない」と宣言したこともあり、この連載でもサザンオールスターズにはじまり、ミニーマウスにSMAP、「半沢直樹」までたくさんのメジャーについて語ってきました。必然的に、いちばんの専門であるクラシック音楽に関する話題が少なくなってしまったのですが、12月は唯一、クラシックがメジャーになる季節でもあります。そう、みんな知っている年末の定番「第九」の季節だからです。

 

どうして「第九」は、そしてベートーヴェンはこんなに愛されるのでしょう? 彼は生前から、フランス革命後の新時代とともにやってきたヒーローでした。有名な難聴のエピソードも伝説に拍車をかけました。そこにきて、反体制的な革命の精神を「第九」で歌い上げた男とくれば、まるで「情熱大陸」みたいです。そういう意味で、とても現代的な「キャラ」人気があるのかもしれません。

おもしろいのは、ベートーヴェン自身もそこを自覚し「わかりやすいキャラ」として振る舞ったのではないかという点です。「第九」の第四楽章に「歓喜に寄す」の合唱を付けたのも、もちろん自由、平等、博愛の宣言でしょう。でも、そのメロディは驚くほどシンプルです。跳躍が少なくなめらかで、音域もほとんどレからラからの5度(レミファ#ソラ)のみ。歌いやすく、耳につきやすい。時代に合ったリアルな歌詞に、いたってシンプルなメロディをつけること。ヒットのための大前提を駆使し、ベートーヴェンは明らかにメジャーを意図したのです。

 

私の今年の初「第九」は19日の読売日本交響楽団。デニス・ラッセル・デイヴィスの指揮は端正かつロックで、ベートーヴェンってこんなに楽しかったんだっけ!と目を開かされました。何度聴いても新しい発見があること。クラシック音楽のなによりの醍醐味です。

演奏会には、天皇皇后両陛下のご臨席もありました。究極のメジャーであるおふたりが姿を現したとき、ホール中を包んだ興奮と喝采が忘れられません。皇后のドレスの珊瑚色、燕尾服の黒、シャンデリアの光に映える美しい楽器のゆらめき、鳴りやまぬ拍手――そういうものをひっくるめて、わたしはクラシック音楽が好きなのだ、とあらためて確信しました。

私はたぶん、根っからの王党派なのです。

 (2013年12月27日付「新潟日報」初出)

 

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