晴雨計 第23回 「歌舞く年」

新年です。年末までイベント続きだったため、今年は都内でお正月。お花を飾った部屋でウィーンのニューイヤーコンサートを聴いたり、親しいひとと近所へ初詣に行ったり映画三昧したり、じつにゆったりと過ごしました。週末には、女優の小橋めぐみさんと三菱一号館美術館へ。印象派と世紀末のアートを眺めてから、ばらの咲く中庭で乾杯しました。

小橋さんは、映画やドラマのほか名番組「週刊ブックレビュー」などにも出演し、いまも文芸雑誌に連載をもつ美しき文系女優。私の著書やブログを読んでくださっていたのが縁でお友だちになりました。同い年で、好きなものがほとんど同じ彼女と大好きな場所で語り合ったのはアートのこと、音楽のこと、マンガのこと、そして表現者として譲れないもののこと。なにより盛り上がったのが、三が日の最後の夜にふたりとも夢中で観ていた市川海老蔵さんのドキュメンタリーのことです。

 

言わずと知れた歌舞伎界のスター、海老様。同世代であることもあって、あの圧倒的な華からは目を離すことができません。さまざまな風評がありますし、いわゆる通の方たちが褒めるのを聞いたことがないくらいなのですが、私自身は、同じ時代を生きられることに感謝しているのです。

海老様のすごさというのは、生まれながらの王者感と過去の屈折、それにともなう視野の広さだと思うのです。ドキュメンタリーはまるで、老舗の若旦那(元ヤンキー)の繁盛記のようでした。海老様が語ると、歌舞伎という伝統芸能がナチュラルに「家業」に聞こえるし、過去にいろいろあったからこそいまそばにいる人びとを愛し、「未来へつなごう」と生き急いでいる感じがたまらない。

なかでもやはり、顧客拡大に対する貪欲さが印象的でした。伝統と革新は、いつでもどんなジャンルでも争いの種です。自分の存在が目立つこと、敵をつくりやすいことも、よくわかっているのでしょう。それでも彼は「歌舞伎なんだからさ」と嘯きます。

「人に見られたい。楽しいことしたい。それがカブキ者でしょ」。

成田屋にしか言えないセリフに感極まった私たちは、表現者として「歌舞いていこう」と誓い合いました。とりあえず、ふたり和装して歌舞伎座へ出かけたらフェイスブックに掲載しますね。

 (2014年1月10日付「新潟日報」初出)

 

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