晴雨計 最終回 「前に!」

このコラムが掲載される金曜日、私は新潟の姉妹都市、フランス・ナントで取材の真っ最中です。ひさしぶりの海外取材は楽しみだけれど、期待や責任も大きく緊張する――そんな私を見かねて、姉と慕う編集者が、SMAP密着ドキュメンタリー鑑賞会を開いてくれました。

木村拓哉さんは言います。「前線から逃げない。やりたくないからやらないは、できないのと一緒」。人を喜ばせるという仕事の重みについて、こんなにも説得力のあることばはありません。目の前のことにいつだって全力を尽くすSMAPを見つめながら、喜びのために働ける私はなんて幸せなのだろうと、涙がこみあげました。

 

子どもの頃から、夢は、と訊かれたらジャーナリストと答えていました。貪るように本を読みあさっていた私は、町の外に、あるいは日本という国の外に、もっと大きな世界があることを確信していたのです。そして、その世界に暮らし、生き生きと仕事をしている未来を、当然のことのように思い描いていました。漠然としたイメージだったけれど、ミステリーハンターのように世界中を飛び回って「世界のすばらしさを伝える」仕事がしたかった。高校進学で県内唯一の英語科を選んだのもその現れでした。

5年ほど前には、音楽業界以外の見識を広げるためフリーになりました。フリーで働くのも、高校時代から想定していたことです。しかしそれは、予想をはるかに上回る茨道でした。

それでも家族や友人に支えられながら、活動のジャンルや形態をどんどん広げ、これまで3冊の本を出版することができました。そして社会人10年目の今年、ナント取材につづき東京フィルハーモニー交響楽団ワールド・ツアーの随行記者に決定したのです。著書に刺激を受けたという広報の強い推薦のおかげでした。ニューヨークを皮切りに、マドリード、パリ、ロンドン、シンガポール、バンコクへ――これまでの成果と新たな出会いによって、「世界」への夢が、現実として目の前にあるのです。

 

帰国して、まもなく3月にはワールド・ツアー。前線の連続に、いまだ武者ぶるいが止まりません。それでも前に進むのは、エンターテインメントの力を信じているから。出会ったすべての人たちへ感謝をこめて、いつだって前だけ向いて歩いていきます。

またいつかきっと、新潟日報でお会いしましょう。

 (2014年1月31日付「新潟日報」初出)

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