いよいよ最後の舞台。タイ、バンコクへ。
シンガポールからバンコクまでは3時間。の夜はコントラバス&オーボエのみなさんと屋台風レストランへ。現地感を味わった。
翌22日はじつに12日ぶりの完全オフ。
コロニアルなホテル内でゆったり過ごした後、ファゴットのチェ・ヨンジンさんにインタビューしたり、夜はマエストロ主催の打ち上げへ行ったり。オーケストラとの別れを惜しみつつ過ごした。
3月23日。東京フィルはいよいよ千秋楽の会場、バンコク郊外のプリンス・マヒドン・ホールに到着した。
楽園のように美しい大学。キャンパス内に落成したばかりのホールは、どこもかしこも輝いている。
落成後初の国際的オーケストラ公演、しかも「日本最古にして最高のオーケストラ」のタイ・デビューとあって、歓迎ぶりも華やか。花々やスタッフの微笑みに出迎えられた一行は、晴れやかな気持ちで最後のリハーサルに臨んだ。
「BUGAKU」とヴァイオリン協奏曲に、「ロメオとジュリエット」と「ウェストサイド物語」。オーケストラは思いのたけを込め、ツアーのラストを飾る音楽を磨き上げていった。
マヒドン大学の音楽学部を創設したヤン博士は、この記念すべきコンサートの目的を次のように語った。
「東京フィルは、日本はもちろん、世界においても最も優れた重要なオーケストラです。私はタイだけでなく、世界中の若者たちが質の高い教育を通して成長してほしいと願っている。東京フィルはその好例だと考えました。日本とタイの関係は良好です。これをきっかけに、今後も末永く交流が続くことを祈っています」。
最後の本番は、タイ国家の演奏から始まった。
式典の厳かな雰囲気の中、登場したマエストロと楽団へ期待に満ちた拍手が送られる。1曲目は、6都市を通して“日本の音”そして“21世紀のジャポニスム”を高らかに歌い上げてきた「BUGAKU」だ。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ……。次々に耳に飛び込んでくるすべての音が、研ぎ澄まされているのがわかった。ヴァイオリン協奏曲は、ともに旅してきた竹澤恭子との息もぴったりで、音楽のダイナミズムに息を飲む。
後半の物語性の高い2曲でも、すべての力を出し切るかのようなドラマティックな熱演が繰り広げられた。最後の喝采が消えても、頭のなかの音楽が鳴りやまないほどだった。
「招聘してくれたからすべておまかせ、という時代は、もう終わったのです」。今回のワールド・ツアーの実行部隊を率いた工藤事務局長は言う。
「きっちりとその土地のマーケティングをし、ふさわしい方法でPRしていく。発信する力。これからのオーケストラに必要なのはそういう姿勢です。世界一周は、私たちにとってもはじめての試み。プログラミングの段階から手探りで、さまざまな軌道修正を重ねてきました。今回のツアーでもさまざまな挑戦をしましたが、すでに頭のなかは『次のツアー』のことでいっぱいです。今回の反省をすぐにでも生かしたいし、現代の技術をもっと活用したい。たとえばインターネットで同時中継し、世界中で感動を共有したいのです」
空港へ向かうバスの眠りにつくような静けさの中で、楽員の一人が、「わが子に『君が生まれてすぐ、世界一周して演奏したんだよ』と伝えたい」とつぶやいた。楽団員ひとりひとりにとっても、オーケストラにとっても、そして日本の音楽史にとっても、まさに歴史に刻まれる旅だった。
(ワールドツアー2014報告書 初出)
東京フィルハーモニー交響楽団 創立100周年記念 ワールド・ツアー2014 | 東京フィルハーモニー交響楽団 Tokyo Philharmonic Orchestra 公式サイト
【Travel】オーケストラと世界一周!14Days [NY、マドリード、パリ編] | 東京フィル ワールドツアー2014 – Salonette
【Travel】オーケストラと世界一周!14Days [ロンドン、アジア編] | 東京フィル100周年記念ワールドツアー – Salonette