トップ娘役の条件|アーネスト・イン・ラブ

週末、宝塚花組のミュージカル『アーネスト・イン・ラブ』を鑑賞。

オスカー・ワイルドの傑作喜劇『まじめが肝心(The Importance of Being Earnest)』を原作に、ブロードウェイがミュージカル化。ワイルドの皮肉たっぷり英国芝居のセリフ(一言多い)が、やわらかく楽しげに翻案されて音楽にのる。リー・ポクリスの音楽は、まるで『マイ・フェア・レディ』のようで心が躍った。

裕福なロンドン子アルジャーノンは、田舎に住むバンベリーという名の友人のいるふりをしている。気のすすまない社会的義務から逃れたいとき、アルジャーノンはいつもこの「病弱な友」への訪問を口実にしていた。アルジャーノンはこの習慣を「バンベリーする (Bunburying)」と名付けている。

アルジャーノンの実の親友は、田舎暮らしだがロンドンに入りびたりのアーネスト(右)。しかし、アーネストが銀の煙草入れを置き忘れた時、アルジャーノンは煙草入れの中に「小さなセシリーより最高の愛を込めて、親愛なるジャックおじさまへ」という文句が刻まれているのを発見する。アーネスト――本名はジャック――はロンドンを訪れるため、アーネストというだらしない弟を持つふり、つまり「バンベリーしている」のだった。ジャックは田舎の屋敷で後見しているセシリーのために、謹厳な紳士を装っている。

ジャックは、アルジャーノンの従姉妹であるグウェンドレンにプロポーズしOKをもらうが、いくつかの問題が発生。ひとつはグウェンドレンがジャックを愛しているのは、名前が「世界で最も美しい名アーネスト」であることが肝心であること。もう一つは、グウェンドレンの母ブラックネル夫人が、駅で取り違えられた手提げ鞄から発見された孤児であるというジャックの身の上に猛反対したこと。ジャックはこれ以上「バンベリーする」ことはやめようと決め、アーネストは非業の死をとげた発表するのだが……

戯曲の最後でジャック――これまた実の本名はアーネスト!――はグウェンドレンと結婚し、アルジャーノンはセシリーと結婚する大団円。

序盤は執事がナレーションを務め、19世紀イギリスの上流生活はこんなかんじで、と解説が入る世話物感もいとおしい。

演劇という側面が強い分、スターといえどもキャラクター、役者としての面白さが前面に出ていた。なんといっても素晴らしかったのが、トップ娘役としてのお披露目となる花乃まりあ(グウェンドレン役)!

まず声が抜群だった。可憐な見た目と、気の強いレディ特有の低めの声音がほんとうにかわいくて、プライドを保ちながら笑顔をキープしているニュアンスが上手い。「アーネスト」をめぐる恋敵と勘違いしたセシリーと、水面下で繰り広げる第二幕のキャットファイトが今回の白眉だった。メイドが持ってきた紅茶に「ロンドンではもう砂糖など入れないの」と嘯くグウェンドレン。女主人としてサーブする、と見せかけて大量の砂糖を入れるセシリー。一口飲んだグウェンドレンが、

「人の言葉がわからないのかしら~?」

と笑顔で激怒するくだりの少女マンガ感といったらなかった。顎をあげてフンと怒る顔が魅力的に見えることは、トップ娘役の絶対条件だと思う。

やはり私は少女マンガのライバル役美女タイプの女優が好きみたいだ。『伯爵令嬢』で少女マンガのヒロインそのものだった咲妃みゆに感じた気持ちよさも忘れがたいが、花乃まりあへの高まりも強烈だった。

 

気が強く、意地悪そうで、でも歌もスタイルも華そのもののプリマドンナ。熱弁したら同行の友人に「ブレア・ウォルドーフだね」と言われて、思わず膝を打った。

舞台全体としては、東京国際フォーラムという会場もあってか宝塚にしては作りこみが少なくシンプルで、過剰なヴィクトリアンを期待していた私には期待外れだったが、オーケストラ・ピット代わりに舞台にしつらえられたオーケストラ・ケージ(クリスタル・パレスを模した?鳥籠風)がかわいかった。奏でられる音楽の、甘やかで耳に残ることと言ったら!

また、装置は少ないが衣装と小道具は魅力的。ポスターのヴィジュアルにあるとおり、一幕のタウンハウスでも二幕のマナハウスの庭園でも、彼らは紅茶を飲んでばかりいる。胡瓜のサンドウィッチにスコーン。観劇後には確実にアフタヌーンティへ行きたくなる、恐るべきワイルド・マジック。

2008年の映画『アーネスト式プロポーズ』で、原作のセリフの世界も味わいたい。

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