宝塚宙組のミュージカル『白夜の誓い』を観賞。
ヴェルディのオペラ『仮面舞踏会』のモデルにもなった、スウェーデン国王グスタフ3世(1746-1792)の物語だ。
舞台は『ベルサイユのばら』と同時代。そう、グスタフはハンス・フォン・フェルゼンの君主でもある。フェルゼン同様、王太子時代をパリで学んだグスタフは、父王の死とともに帰国。腐敗した宮廷をクーデターで一新し、国王親政を取り戻し、女帝エカチェリーナのロシアやデンマークに勝利していく。歴史好きにはたまらないシークエンス!
一方で、ルソーの啓蒙思想とフランス文化に心酔した“ロココの寵児”でもあったグスタフ。
たびたび登場するオペラ座(王立歌劇場)建設への情熱が、幼馴染みの腹心アンカーストレムとの確執にもつながってしまう――ヴェルディの脚本家には悪いが、なんでも男女の惚れたはれたにしてしまうオペラよりも、よほど硬派でときめく「男同士の絆」の物語だった。
奇しくもオペラ座の舞踏会を舞台にして暗殺されるグスタフには、これが退団公演となる鳳稀かなめ。近衛士官長リリホルン(次期トップの朝夏まなと)に未来を託すラストに唸ってしまった。宝塚のこういう様式美が、わたしは大好きだ。
革命、主従の絆、海戦シーンの指揮官ぶりと群舞(『ベルサイユのばら』『銀河英雄伝説』)、王妃へのドエスぶり(『風と共に去りぬ』)、レヴューでの怪盗カナメールの女装(パイナップルの女王!)など、トップスター在位2年半の功績を凝縮したような濃厚さだった。ゴールドとロイヤル・ブルー、そしてグレイがかったスモーキーパステルを多用した有村淳のロココ衣装も贅沢。
どこまでも二次元のような鳳稀かなめがただ、ただ、美しかった。マントさばきもあいかわらず美しかった。
実際のグスタフもそうとうの洒落者。着用したセラフィム騎士団の儀礼服(上写真)ひとつをとっても、それがよくわかる。
トップ娘役・実咲凛音の正統派プリンセス演技からも目が離せなかった。
このひとは優美なのはもちろんほんとうに歌がうまい。あらめて驚くほどうまい。
ミュージカルのなかでは「伝統あるデンマーク王女のこの私が、こんな小国に嫁ぐことなるなんて」と、葵の上ばりのツン発言をして結婚相手をげんなりさせてしまう高慢な王妃像(ほんとうはグスタフを助けたいと思っているのに!)。でも、その尊大さと打ち解けない態度の裏には、真面目すぎる性格もあったらしい。
フランス仕込みの華やかな夫グスタフに対して、北欧らしい秩序と孤独を愛するソフィア。
2週間に1度のサロンと観劇のほかは、自邸のウルリクスダール宮殿にこもった。フランス式ドレスはこれ見よがしだと嫌い、英国式ドレスを好んだ。
優雅で礼儀正しいが堅苦しい王妃を、グスタフは「氷みたいに冷たい」と評していた。
それでも1778年、ソフィアは待望の王子グスタフ(のちの4世)を出産する。とたんに愛人の子という噂が広がった。母后ロヴィーザは嫁との絶縁を宣言。するとグスタフ3世は母に公式の場で謝罪をさせた。この事件で夫婦は和解したという。
14年後の1792年、グスタフ3世は仮面舞踏会で暗殺される。 貴族たちの権力を奪った啓蒙君主への不満が膨らんでいたためだ。
ソフィアは隠遁して慈善活動に精を出した。14歳の息子グスタフ4世の摂政は義弟カール(のちの13世)に任せて政治には関わらなかった。
1809年にグスタフ4世がカールに追放されても、ソフィアはずっとスウェーデンにとどまった。そしてカール14世の王妃デジレ・クラリーに親切にした、数少ない人びとのうちの一人となった。エカチェリーナとともにこぼしていたとおり、嫁ぎ先で冷たくされる異国の王女の悲しみがわかっていたからかもしれない。
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