やっぱり全部シャンパンのせい|二期会公演『ウィーン気質』

去る11月、二期会がヨハン・シュトラウス2世のオペレッタ『ウィーン気質』を上演した(11/21-25 日生劇場)。

二期会のスター歌手たちが揃うのはもちろん、元・宝塚歌劇団の荻田浩一(愛称オギー)氏が演出を務めるということで、周囲の宝塚ファンからもなにかと注目を集めていた『ウィーン気質』。おもにウィーン・フィルのニューイヤーコンサートなどによって、こちらのワルツはよく知られている。

Wiener Blut – Johann Strauss – YouTube

もともとは1873年、ハプスブルク家の皇女と、隣国バイエルンの王子との婚礼を祝う舞踏会用の新作ワルツだった。晩年、体力の衰えたワルツ王は自身の傑作ワルツ「レモンの花咲くところ」「朝の新聞」、ポルカ「浮気心」などといっしょにコンピレーションし、オペレッタ『ウィーン気質』が生まれることとなった。

「ウィーン気質」(Wiener Blut=直訳すると「ウィーンの血」)というのは、浮気な恋愛もおしゃれにこなす粋な生き方のこと。

オペレッタの舞台は、19世紀初頭のウィーンだ。「会議は踊る」で有名なウィーン会議が開かれている最中で、そのため東部ドイツの大使や大臣たちがたくさんが登場する。主人公のツェドラウ伯爵は架空の国ロイス・グライツ・シュライツの外交大使。かつては堅物で、ウィーン子の夫人が愛想を尽かすありさまだったが、今や数々の女性と浮名を流して人生を謳歌している。ところが彼は一国の大使。そのような「乱行」は許されないということで、大臣や、浮気相手が登場してお決まりのドタバタ劇に。オペレッタらしく、最後はみんなで歌って大団円となる。

「ウィーン子の血 それはウィーンだけのもの……」

一身上の都合で伺うことがかなわなかった高野にかわり、Salonette広報担当の鷲尾仁美さんがレポートしてくれた。まずは稽古場のようすから。

今回は「シアターガイド」読者招待企画に混ぜていただき、公演監督の加賀清孝さんから直接、作品の解説や見どころをレクチャーして頂きました。加賀さんいわく、「オペレッタは論理で聴くものではない、音楽で聴け!」とのこと。

「だってね、どんなに自分が悪かったり浮気されたとしても『全部シャンパンのせいだよね~』って言えます? 普通言えないですよね? オペレッタの最後のどんでん返しは本当に腹が立つ!(笑)」

『ウィーン気質』も例に漏れずのご都合主義。だから物語に言及してはいけないそうです。(笑)

また、オペラ発声についても触れ、演劇やミュージカルとは違う、オペレッタ(オペラ)ならではの楽しみかたを伝授してくれました。

「マイクを使わないので、声を響かせるために言葉が犠牲になることもあります。特に高い音で母音以外聞こえないのはしょうがないんです。だから分からないものだと思って聴くと楽ですし、声の美しさや鍛え上げられたテクニックを楽しむのに集中できますよ。」

ほどなくして稽古が始まると、緩んだ空気はきゅっと引き締まりました。

凛とした表情で伸びやかに歌うキャストたち。衣装こそないものの、演じる表情や所作に高貴さが溢れており、みなさんの演技だけでウィーンの煌びやかな薫りが漂ってきます。

そして、想像していたよりも物語の展開が抱腹絶倒もの。登場人物のすれ違いっぷりが面白く、声を出して笑わないように必死でした。加賀さんもレクチャー中たくさん冗談を言って私たちを笑わせてくれたので、彼が日本語に訳したと思えばこの爆笑も納得です。演出もコミカルで、登場人物のコントのような動きが余計に笑いを誘いました。(ぜひ注目してください!出てくる全員が面白すぎます!)

稽古場には高野も別日に伺ったが、たしかに優雅な気持ちでいっぱいになった。ウィーン・フォルクスオーパーでも活躍する指揮者・阪哲朗さんにお話を伺うと、

「オペレッタ、そしてウィンナ・ワルツはただ音符を刻めばいいというものではないんです。いかに空気を作るか。そして歌=セリフですから、きちんと伝わらなくてはなりません。オペレッタには苦しみも死もないけれど、きちんと人生を描いている。それが洗練であり、ウィーンらしさであるのかもしれません」

と含蓄のあることばをたくさんくださった。そんなマエストロの音楽も含めた、鷲尾さんのレポート後半である。

さて、本公演も見て参りました。

1幕だけで面白さは確信していましたが、「安心してください!履いてます」という流行りのフレーズも入っていたりして、訳詞上演だからできる言葉遊びが秀逸。また、日本語だったことで、キャスト陣の歌声の凄味だけでなく、演技のうまさも改めて思い知ることとなりました。

特にカーグラー役の鹿野由之さんと、ギンデルバッハ侯爵役の久保和範さんのやりとりはまるでお笑いコントのよう。とぼけた表情と絶妙な間合いで、何度も会場を沸かせていました。

正妻の余裕を持つ伯爵夫人を演じたベテランの澤畑恵美さんと、若い愛人カリアリ役の三井清夏さんのキャラクターの対比も鮮やかで、ペピ役の高橋維さんとヨーゼフ役の児玉和弘のラブラブカップルっぷりも何とも微笑ましい。ツェドラウ伯爵は小貫岩夫さんが演じるからなのか、どうしようもない男なのに溢れる憎めなさが悔しいほど。

キャスト陣の日本語の発音が心地よく耳に届くことに加え、外見も声質もそれぞれが役にハマっているので、つい(公演監督の加賀さんいわく「腹の立つ」!)物語にも引き込まれてしまいます。

東フィルの奏でる洒脱なウィンナーワルツは本場顔負け。ゆったりとした余裕のあるリズムは、めくるめく貴族の世界で私の心をいつまでも踊らせてくれました。

ダンサーが歌手の周りで常に躍動感を添えていたり、タキシードを着た女性たちが合唱で登場するなど、宝塚出身の萩田浩一さんらしい演出も散見。

キャストのドレスの色や、照明の少しの変化で柔らかく雰囲気を変える木材やビニールには夢の中の出来事のような曖昧さがあり、より想像力を掻き立てられました。脚本に大いに笑い、演出に考えさせられ、音楽と歌声に酔いしれた2時間半。原語オペラ鑑賞とは違った視点からの感想が次々と浮かび、自分の世界が広がった気がしました。

二期会の訳詞上演オペレッタ、普段原語オペラしか観ない人にもお勧めします!

(取材/文:鷲尾仁美)

www.nikikai.net

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